1998-01-01から1年間の記事一覧

『サラブレッドの幸せ』

セン馬は種牡馬になることが出来ない。引退したレガシーワールドは、生まれ故郷のへいはた牧場に帰って、余生を過ごすことになった。最近、レガシーワールドは、相棒だったポニーのパピーちゃんが亡くなってしまったということで、寂しそうな様子を見せてい…

『夢の終わり』

さて、レガシーワールドには6歳時にアメリカ遠征のプランも持ち上がった。確かに天皇賞・春に出られない以上、レガシーワールドが目標とすべきレースは宝塚記念(Gl)まではない。ジャパンCを勝って国際Gl馬となった以上、レガシーワールドは色々と差別の多…

『名馬の涙』

続く有馬記念(Gl)では、レガシーワールドは激走の疲れか、トウカイテイオーとビワハヤヒデの死闘から遠く離された5着に敗れた。掲示板を外さないのはさすがだが、レガシーワールド本来の走りでなかったことは否めなかった。 一部の一流馬は競馬の意味を知…

『ゴール誤認の余波』

さて、レガシーワールドの勝利に終わったジャパンCだったが、デザーモ騎手のゴール板誤認事件によってその後味がやや悪いものとなったことは否定できない。レース後の取材はレガシーワールドよりもコタシャーン陣営に集中した感があったし、「あのミスがな…

『そして世界の頂点へ』

レースはやはりメジロパーマーが引っ張る展開で、レガシーワールドは2番手につけた。それに続くのがマチカネタンホイザ、ライスシャワーらで、前で競馬をするのがほとんど日本馬という形になったため、ここまでは普通の国内戦と変わりなかった。しかし、この…

『最強の外国馬達』

しかし、立ちはだかる敵は大きい。この年のジャパンCは、史上屈指の世界の強豪たちが集結したレースとなった。 米国からは、ブリーダーズカップターフ(米Gl)を制したコタシャーン、同レース3着のルアズー、そしてアーリントンミリオン(米Gl)など、この年…

『別離(わかれ)を乗り越えて』

レガシーワールドは、AJCC(Gll)でホワイトストーンの2着に敗れた後、骨折が発覚して長期休養に入ったが、その間に管理調教師だった戸山師は、ガンに倒れた。戸山師のガンはもう手の施しようがないほどに悪化しており、もう馬をみることはできなかった。こ…

『世代の「雄」として』

4歳のレガシーワールドが出走したジャパンC(国際Gl)は、その年から国際Glに認定されていた。このレースに勝つことは、取りも直さず世界に認められることになる。日本競馬の新しい時代の到来である。ここで、レガシーワールドは、10番人気ながらもトウカイ…

『裏街道』

閑話休題。重賞初制覇を果たしたレガシーワールドだが、哀しいかなこの後は、彼に適した良いレースがなかなかなかった。もともと当時のレース体系上、有力な4歳馬は、この時期菊花賞か天皇賞・秋(Gl)に進むようになっている。しかし、セン馬であるレガシー…

『宦官の復讐』

こうして本格化したレガシーワールドの次走は、関東へ遠征してのセントライト記念(Gll)に決まった。レガシーワールドにとって、重賞初挑戦である。 セントライト記念は菊花賞トライアルだが、それと同時にセン馬にも門戸が開かれている珍しいレースである。…

『変身』

すると、レガシーワールドは馬が変わったように快進撃を始めた。復帰初戦は「心悸亢進」という訳の分からない理由で騎手を振り落とす大暴れを見せて競走除外となったものの、実質復帰初戦の次走で初勝利を挙げた。すると、それをきっかけに、3歳時が嘘のよう…

『気性難』

こうして生まれたレガシーワールドだったが、彼には両親から受け継いだ致命的な欠陥があった。それは、気性難である。 レガシーワールドの父であるモガミは、三冠牝馬メジロラモーヌやダービー馬シリウスシンボリを出した名種牡馬である。このほかにも障害で…

『レガシーワールド』

レガシーワールドは、静内のへいはた牧場で生まれた。父はモガミ、母はドンナリディアという血統である。 へいはた牧場は、幣旗力氏が(株)ホースタジマの社主を務めていた田島正雄氏に運営を任されて始まった牧場である。もともと土地、資金の準備は田島氏…

『一代の名馬』

去勢するということは、その馬の関係者にとっては大きなリスクを伴う。シャドーロールやプリンカーのような矯正器具と違って、去勢手術はいったん施してしまうと、もはや取り返しがつかない。牡馬が活躍すれば引退後も種牡馬としての価値があり、高額のシン…

『せん馬の謎』

競馬を覚えたての人間が必ず突き当たる疑問として、馬の性別表示欄の「セン」という記載の意味は何かという問題がある。 性別欄の記載である以上、「牡」「牝」はビギナーにもわかる。しかし、何レースに1頭ほどの割合で紛れ込んでいる「セン」とは、何者な…

■第006話―世界夢見た名伯楽の遺産「レガシーワールド列伝」

1989年4月23日生。牡(せ)。鹿毛。へいはた牧場(静内)産。 父モガミ、母ドンナリディア(母父ジムフレンチ)。 戸山為夫厩舎(栗東)→森秀行厩舎(栗東)。 通算成績:32戦7勝(3-8歳時)。主な勝ち鞍:ジャパンC(国際Gl)、セントライト記念(Gll)、ド…

『獅子の魂、いまだ死せず』

自らは種牡馬として大成功を収めたマルゼンスキーだが、その直系は現在、断絶の危機にある。マルゼンスキーの子供たちは、ホリスキーやスズカコバンを見ればわかるように、種牡馬としてそこそこの成績は残すものの、Gl級の後継馬を残すことができないまま高…

『現実という嵐の中で』

AJCCを最後に現役を引退することが決まったレオダーバンは、その後CBスタッドで種牡馬入りすることが決まった。レオダーバンの引退後も競走生活を続け、3度目の骨折を乗り越えたトウカイテイオーが奇跡の復活を遂げたこの年の有馬記念と同じ時期に、レオダー…

『獅子にかつての光なく』

レオダーバンは、奥平師ら関係者の必死の努力によって、何とか実戦に復帰した。しかし、復帰後のレオダーバンは、もはやかつてのレオダーバンではなかった。 レオダーバンの復帰戦は、故障前のレオダーバンが目標としていた有馬記念からちょうど1年後になる1…

『早すぎた挫折』

この年の有馬記念の大本命馬は、前年の菊花賞(Gl)、この年の天皇賞・春(Gl)を制し、天皇賞・秋(Gl)でも後続に6馬身差をつけて1着入線(降着)を果たしたメジロマックイーンとみられていた。だが、岡部騎手はレオダーバンについて「中距離ならマックイーンとも…

『暫定王者の悲哀』

こうして菊花賞馬となったレオダーバンだったが、その実力に対する評価を歴代菊花賞馬たちと比べた場合、お世辞にも高いとはいえない状況だった。レオダーバンの勝ち時計は3分9秒5と1976年のグリーングラスの時以来の遅い時計だったし、何といっても彼の勝利…

『若き獅子の咆哮』

計算し尽くされた岡部騎手の騎乗は、見事に結果となって表れた。超スローペースで馬群が団子状態となったまま第4コーナーまで押し寄せたこのレースは、完全な直線での上がり勝負となったのである。・・・スタミナに不安がある半面で、瞬発力を武器としていた…

『名手の魔術』

この日のレースはフジアンバーワンが引っ張り、非常にゆったりとした展開になった。1200m通過時点で1分15秒2というラップは、前年のメジロマックイーンが制したレースの流れと比べると、実に2秒6も遅い超スローペースだった。 これは、行きたがる気性のレオ…

『本命なき戦い』

もっとも、レオダーバンに懐疑的な見方が広がっていく中で、岡部騎手だけはレオダーバンの成長を確信していた。「結果は負けたけれど、内容は悲観するようなものじゃないよ」 セントライト記念をこのように評した岡部騎手は、果たしてこのレースの中から、何…

『不安と不信の中で』

トウカイテイオーがいなくなってみると、ダービー2着のレオダーバンは、当然ながら菊花賞の有力候補の1頭に数えられることとなった。この時点での彼の戦績は5戦3勝2着1回という安定したものであり、ダービーでもトウカイテイオーの次にゴールしたのはレオダ…

『菊花賞戦国絵巻』

ダービーがトウカイテイオーの完勝に終わったことで、競馬界の関心は、秋の菊花賞戦線へと移っていった。しかし「菊花賞を勝つのはどの馬か」を考えるには、トウカイテイオーのダービーがあまりにも鮮烈すぎた。 皐月賞よりダービーで、より強い競馬を見せた…

『永遠の敗北』

トウカイテイオーが、自分の勝ちパターンとなる好位からの競馬で直線の抜け出しを図ったのに対し、後方からの鋭い末脚を武器としていたはずのレオダーバンは、中団よりやや前でレースを進めた。東京競馬場の直線は長いが、世代の一流馬が揃うダービーでは、…

『夢の舞台』

第58回東京優駿(Gl)の1番人気は、当然のように、不敗のままで皐月賞を制したトウカイテイオーだった。もともと皐月賞の上位馬は、ダービーでも上位に来ることが多い。しかし、この年の皐月賞上位馬については、ことトウカイテイオーとその他に関する限り、皐…

『我、府中に立つ』

華やかな戦いの舞台に立つことは、一流馬の特権である。皐月賞で悔しい思いをしたレオダーバンだったが、そんな思いはもうたくさんだった。既に2勝を挙げているレオダーバンの次走は、当然のことながらダービーへのステップレース・・・奥平師が次走に選んだ…

『帝王の伝説』

この年の皐月賞馬となったトウカイテイオーは、日本競馬史上唯一、不敗のままクラシック三冠を達成したシンボリルドルフの初年度産駒だった。シンボリルドルフは通算16戦13勝2着1回3着1回、レース中の故障に泣いた海外での1戦を除くと、ほぼ完璧な成績を残し…