『不安と不信の中で』

 トウカイテイオーがいなくなってみると、ダービー2着のレオダーバンは、当然ながら菊花賞の有力候補の1頭に数えられることとなった。この時点での彼の戦績は5戦3勝2着1回という安定したものであり、ダービーでもトウカイテイオーの次にゴールしたのはレオダーバンだった。ダービー馬がいなくなれば、菊花賞のゴールを真っ先に駆け抜けるのがレオダーバンだったとしても、何の不思議もない。

 しかし、その反面で、レオダーバンには素直な発想をそのまま受け入れさせない、いくつかの不安材料があった。まず、行きたがる気性が長距離でのスタミナ比べでは、致命傷となるのではないか。極限のスタミナを要求される菊の過酷な舞台で折り合いを欠くということは、それだけで勝負圏から脱落する直接の原因となるおそれがあった。レオダーバンのキャリアの少なさは、未知の魅力の要因であるとともに、思わぬ脆さをさらけ出す敗因となる可能性もある。ダービーが重賞初挑戦という経験の浅さが、三冠の中でも「強い馬が勝つ」といわれる菊花賞の激しい流れの中で、果たして吉と出るのか凶と出るのか。

 レオダーバンの期待と不安を秘めた秋の初戦は、セントライト記念(Gll)に決まった。関東唯一の菊花賞のステップレースに集まったのは、青葉賞レオダーバンに敗れた関東馬たちが主流だった。

「この相手なら、負けるはずがない」

 多くのファンがそう考えたのも、当然といえる。単枠指定を受けたレオダーバン単勝は、実に130円という圧倒的な1番人気となった。

 ところが、レオダーバンストロングカイザーツインターボに先着を許して3着に敗退してしまった。これは、あまりにも意外な結果である。青葉賞11着馬と同9着馬に足もとをすくわれたことで、レオダーバンへの不安と不信は一気に表面化することになった。1965年のダイコーター以来、菊花賞を勝ったダービー2着馬はいないという歴史も、レオダーバンに重くのしかかってきた。