『菊花賞戦国絵巻』

 ダービーがトウカイテイオーの完勝に終わったことで、競馬界の関心は、秋の菊花賞戦線へと移っていった。しかし「菊花賞を勝つのはどの馬か」を考えるには、トウカイテイオーのダービーがあまりにも鮮烈すぎた。

 皐月賞よりダービーで、より強い競馬を見せたトウカイテイオー菊花賞で敗れる姿を想像することは、一般のファンには非常に難しいことだった。ダービー直後の競馬ファンの大多数の思いは

「秋には不敗の三冠馬が誕生する・・・」

というものだった。・・・その予測が秋を待たずして外れることなど、誰にも予想できるはずがない。

 だが、ダービーが終わった後に競馬界に流れたのは、「トウカイテイオーにレース中の骨折が判明」というニュースだった。菊花賞までの復帰は、絶望だという。こうして父に次ぐ「不敗の三冠馬」の夢は絶たれ、菊花賞戦線は無風から一転して、本命不在の戦国絵巻へと様変わりした。