『永遠の敗北』

 トウカイテイオーが、自分の勝ちパターンとなる好位からの競馬で直線の抜け出しを図ったのに対し、後方からの鋭い末脚を武器としていたはずのレオダーバンは、中団よりやや前でレースを進めた。東京競馬場の直線は長いが、世代の一流馬が揃うダービーでは、前の馬がなかなか崩れない。また、前にいる馬が多ければ多いほど、不利を受けやすくなる・・・。

 しかし、それまで逃げ切りか直線一気のレースしかしたことのなかったレオダーバンにとって、ダービーは実質的に初めて馬群の中でのレースとなった。未経験の戦いに、まだ若いレオダーバンの心は、はやりを抑えることができなかった。そのことによる戸惑い、スタミナのロスもあったのかもしれない。

 レオダーバンの末脚は、最後の直線で爆発する・・・はずだった。だが、彼が見せた破壊力は、青葉賞のような激しいもののではなく、ファンの期待ほどではなかった。・・・いや、レオダーバンもいちおう脚を伸ばしてはいた。それでも前を行くトウカイテイオーとの差は、思うように縮まってはこない。むしろ、広がっていく・・・。

 トウカイテイオーは、レオダーバンを3馬身引き離したままゴール板へとなだれ込んでいった。父に次ぐ、親子二代の不敗の二冠馬の誕生である。父、母、そして生産牧場の夢を背負った代理戦争はトウカイテイオーに凱歌が上がり、レオダーバンは、一生に一度しかないダービーで敗れ去った。勝利に向けたひそかな、しかし絶対の自信を持っていた奥平師の「7、8割は勝てる」という思いは、実らなかった。

 負けたとはいえ、全力を出し切っての敗北だった。それゆえに、彼らに悔いはなかった。しかし、悔いはなくとも悔しさはある。ダービーで初めて敗れた早田氏は、目の前の敗北の光景によって、「ダービーを獲る」ということがどれほど困難か思い知らされた。

 レオダーバンがダービーで2着に入った後、早田氏は家族の許しを得て禁煙を解いてもらったという。果たして初めてダービーへ出走させた馬が2着だったことに満足したのか、それともダービーを実際に戦ったことで「当分ダービーは獲れない」と思ったからなのか・・・。真相は今となっては知る由もない。