『夢の舞台』

 第58回東京優駿(Gl)の1番人気は、当然のように、不敗のままで皐月賞を制したトウカイテイオーだった。もともと皐月賞の上位馬は、ダービーでも上位に来ることが多い。しかし、この年の皐月賞上位馬については、ことトウカイテイオーとその他に関する限り、皐月賞でもはや勝負づけは終わった、という見方が主流を占めていた。もしトウカイテイオーを脅かすとすれば、皐月賞では不利があって4着に敗れたものの、トライアルのNHK杯(Gll)を豪快な末脚で優勝したイブキマイカグラが本番を目前にして骨折したことで、トウカイテイオーの優位はますます揺るぎないものとなった。

 そんな中で、ファンが打倒トウカイテイオーの一番手に推したのは、皐月賞2着のシャコーグレイドをはじめとする皐月賞組ではなく、未対決の上がり馬であるレオダーバンだった。レオダーバン青葉賞で見せた鮮烈な差し切り勝ちは、アンチ本命党たちの心をがっしりとつかんだ。ダービー馬を父に持つトウカイテイオーと、ダービーに出ることを許されなかった父を持つレオダーバン。下総御料牧場に遡り、波乱万丈の牝系として生きてきた母系のトウカイテイオーと、小岩井農場に遡り、着実に成果を上げてきた牝系から出たレオダーバン。対照的な血を持つ王者に挑むレオダーバンの戦いは、同時に早田牧場新冠支場の夢をも背負うものだった。

 ちなみに、レオダーバンの鞍上を務める岡部騎手は、かつてシンボリルドルフのパートナーだった。皮肉な運命といえば皮肉な運命だが、レオダーバン陣営にて見れば、押しも押されぬ騎手の第一人者の卓越した手腕は、この上なく頼もしいものだった。絶好の仕上がりに満足した奥平師から

「7、8割は勝てるよ」

といわれた早田氏は、この日表彰台に立つことになっても恥ずかしくないよう、正装で東京競馬場に現れたという。

 だが、そんな己の持つすべてを背負った戦いの決着は、あまりにあっけないものだった。