1999-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『いつの日か夢を』

現役生活を引退したサニーブライアンは、最初、新冠のCBスタッドで種牡馬生活に入った。「二冠馬」という金看板と、必ずしも高くない評価。二つの相克する要素を抱えた種牡馬サニーブライアンの将来は、不透明と思われていたが、実際の種牡馬生活では、初年…

『謎の二冠馬にあらず』

1997年の年度代表馬の選考では、皐月賞(Gl)、日本ダービー(Gl)を逃げ切ったサニーブライアンの他に、牝馬ながら天皇賞・秋(Gl)を勝ち、ジャパンC(国際Gl)2着、有馬記念(Gl)3着と活躍した女帝エアグルーヴ、マイルCS(Gl)、スプリンターズS(Gl)を連覇した外国…

『燃え尽きぬままに』

半年後、サニーブライアンが骨折癒えて帰ってきた時は、秋競馬が本格化しつつあった。復帰当初、有馬記念(Gl)を使って使えないことはない、と言われていたが、中尾師は、無理を嫌って早々と回避を表明した。サニーブライアンの復帰は5歳になってからとされ、…

『逃げられなかった菊花賞』

検量室へ戻り、ダービー制覇の興奮も覚めやらぬ大西騎手に対し、インタビュアーは早速「秋」のことを尋ねた。秋・・・それはもちろん夢の「三冠」のことである。 二冠ジョッキーとなった大西騎手は、その質問に対して「菊も逃げます! 」と力強く答えた。サ…

『あの初夏、最も幸福な人々』

サニーブライアンによる二冠達成は、彼の関係者たちにも大きな喜びをもたらした。大西騎手、中尾師、馬主の宮崎氏、生産者の村下ファーム・・・すべての人々にとって、それは初めてのダービー制覇だった。 サニーブライアンの関係者をみると、厩務員が代わっ…

『二冠馬誕生』

以前にも触れたとおり、サニーブライアンは、追ってしぶとい脚を長く使える反面、一瞬の斬れ味には欠ける馬だった。直線で持ち前の瞬発力を爆発させるシルクジャスティスに対抗するためには、前半の貯金を守り抜くしかなかった。さすがに、それまで2300m以上…

『すべてを燃やし』

道中ずっとマイペースで、それも他の馬に邪魔されることすらなく自らレースを作ってきたサニーブライアンの逃げ脚は、レースが大詰めを迎えても、まったく衰えるところを知らない。第3コーナーを回ったあたりでようやくざわついた雰囲気がスタンドに広がり始…

『すべては彼らのために』

大西騎手は2番手のフジヤマビザンからセーフティリードを保ったまま、巧みにペースを落としていった。ただでさえ折り合いのつきやすいサニーブライアンなら、この日の道中で、苦しむことは何もなかった。第2コーナーを回って向こう正面に入っても、実に気持…

『単騎逃げ』

サニーブライアンの逃げと張り合うことが予想されていたサイレンススズカについて、レース後、何故逃げなかったのかという質問に対して、上村騎手は次のように語っている。「もし馬に任せて先手を奪いにいったとしても、相手(サニーブライアン)は絶対に退か…

『油断めさるな』

ゲートが開いて、大外からは、サニーブライアンと大西騎手とがするすると上がっていった。そうすると、他の馬たちは、別に競りかけることもなく先頭を譲る。あるいは先手をとりにいくかと思われていたサイレンススズカも、馬は行く気満々なのに、上村洋行騎…

『特別な日』

東京競馬場に戦いの開幕を告げるファンファーレが鳴り響き、スタンドを埋め尽くす十数万のファンが大喚声をあげた。ところが、戦いを目前にしたゲート入りの時にトラブルが起きた。出走馬の1頭が落鉄した釘を踏んでしまって暴れたため、発走除外となってしま…

『皐月賞馬は戦場に還る』

大西騎手のテンションは、ダービー前日もまったくとどまるところを知らなかった。毎年有力馬の騎手を集めてダービー直前に行われるダービーフェスティバルでも、大西騎手は吹きまくった。大西騎手いわく、「単騎先行で行きます。どこかでセーフティリードを…

『人気はいらない』

自信を深める大西騎手をよそに、ファンはサニーブライアンの大外枠を、むしろマイナス材料とみなした。理性、そして常識の上からは、当然の選択だったが、それにしてもサニーブライアンは、人気がなさすぎた。皐月賞馬サニーブライアンのダービーでの人気が…

『見えざる力』

日本ダービーの枠順を決める抽選は、ダービー前々日の金曜日に行われる。サニーブライアン陣営からは、大西騎手がくじ引きのために出ていった。 大西騎手は、前々から枠順について「大外(18番)がほしい」と広言していた。理由は、皐月賞と同じである。皐月賞…

『無視された警鐘』

こうして各陣営が大西騎手の心理作戦に陥っていく中、ダービーの日は刻一刻と近付いていた。絶対的な本命がいないまま、混戦ダービーの様相ばかりが深まっていく。 そんな中で人気を集めたのが、皐月賞では1番人気を裏切る4着に敗れたものの、直線追い込んで…

『心理戦』

しかし、サイレンススズカに競りかけられた時のことを記者に訊かれた大西騎手は、一笑に付した。「皐月賞と同じ。とにかく逃げます。何が来ても関係ありません」 皐月賞直後のインタビューと同じ内容を、さらに強く断言したのである。 サニーブライアンは、…

『逃げ馬二頭』

皐月賞を終えた4歳馬戦線は、一気にダービーに向けて加速していった。ダービートライアルの青葉賞(Glll)ではトキオエクセレントが勝ったものの、時計が悪く、評価も高くなかった。むしろ、京都4歳特別(Glll)を大外からまくって豪快に差し切ったシルクジャス…

『蹴飛ばされた皐月賞馬』

ところが、サニーブライアンは、突然プリンシパルSを回避してしまった。なんと、レースを前にしての調教中に、未勝利馬に蹴飛ばされて外傷を負ってしまったのである。幸い軽症でダービーには間に合うとのことだが、調整過程が大きく狂ったことで、プリンシ…

『報われぬ勝利』

こうして皐月賞馬となったサニーブライアンだったが、その勝利に対する評価は、悲しいまでに低かった。一部の競馬評論家からは「展開に恵まれた」だの「実力馬が不利を受けた」だのとけちをつけられ、挙句の果てに「ただのフロック」と言い切られたりもした。…

『大波乱』

有力馬がレースの流れをつかみ損ねてもがいているのを尻目に、先頭に立ってからのサニーブライアンは、直線ではさらに二の脚を使って、後続を突き放し始めた。この期に及んで、ようやく馬群は事態の深刻さに気づいたのか、先頭を行くサニーブライアンにいっ…

『本命馬たちの誤算』

皐月賞では、大西騎手の作戦は、ぴたりとはまった。好位置につけていた馬たちは、後方にいるはずのメジロブライト、ランニングゲイル、ヒダカブライアンといった有力馬がいつ仕掛けてくるか、そればかりに気を取られていた。ところが、人気馬たちはいっこう…

『レースを支配する』

皐月賞当日、ふたを開けてみると、1番人気はメジロブライト、2番人気はランニングゲイルとなり、「父内国産馬」の人気の根強さを物語る人気情勢となった。もっとも、莫大な金が動く馬券の人気が、心情馬券のみで大きく動くはずはない。この2頭が、いずれも人…

『引き寄せた幸運』

戦前のサニーブライアンの扱いも、馬券上の人気に比例して、かなり小さなものにとどまった。大西騎手は、皐月賞への抱負を問われた際、敢然と「逃げ宣言」をしている。弥生賞、若葉Sで逃げられなかった悔いを、本番でも繰り返したくはなかった。だが、若葉S4…

『主役たちの陰で』

この年の皐月賞(Gl)で人気を集めると見られていたのは、メジロブライト、ランニングゲイルという2頭の父内国産馬だった。 メジロブライトは、新種牡馬メジロライアンの初年度産駒である。メジロライアンは、現役時代にはGlで「差して届かず」という惜敗を繰…

『逃げて勝機あり』

ジュニアCを勝ったことで本賞金を大きく上積みしたサニーブライアンは、皐月賞(Gl)、そして日本ダービー(Gl)というクラシック路線を意識して、まず弥生賞(Gll)へと出走することになった。だが、このレースでのサニーブライアンと大西騎手は、スタートで後手…

『暗中模索』

・・・だが、新馬勝ちを記録した後のサニーブライアンは、しばらく苦戦を続けた。早熟血統とは言い難いサニーブライアンだけに、この時期はまだ馬が本物ではなかったのかもしれない。 2戦目となる百日草特別(500万円下)では、新馬戦と同じく逃げに持ち込んだ…

『戦場に立つ』

サニーブライアンのデビューは、3歳10月の東京競馬となった。鞍上は、当然ながら大西騎手である。そんな彼らの初めての戦場は、東京芝1800mの新馬戦だった。 ブライアンズタイム産駒、ダービー2着馬サニースワローの甥・・・そんな血統背景を持つサニーブラ…

『忘れ去られし騎手』

大西直宏騎手は、当時35歳で、もはや騎手としては中堅というよりもベテランといっていい年齢になりつつあった。彼もまた、かつてサニースワローの主戦騎手を務めた男である。・・・だが、当時の彼は、年齢の割にファンにはあまり名前を知られていない、マイ…

『出会い』

村下氏の期待を集めた鹿毛の牡馬は、母、そして叔父のサニースワローと同じように、宮崎守保氏の所有馬となり、これまた叔父が現役時代に所属していた美浦の中尾銑治厩舎へと入厩することになった。サニーブライアンの「サニー(冠名)+父の名の一部」という…

『計算された配合』

サニーブライアンの牝系を遡ると、4代前に、桜花賞馬ツキカワの名を見出すことができる。この牝系が村下ファームにやってきたのは、ツキカワの孫サニーロマンの代のことで、その後、この牝系は村下ファームの基礎牝系となっていた。サニースイフト自身も、競…