『二冠馬誕生』

 以前にも触れたとおり、サニーブライアンは、追ってしぶとい脚を長く使える反面、一瞬の斬れ味には欠ける馬だった。直線で持ち前の瞬発力を爆発させるシルクジャスティスに対抗するためには、前半の貯金を守り抜くしかなかった。さすがに、それまで2300m以上を先頭で力走してきたサニーブライアンには、もうもう余力は残っていない。一完歩ごとにその差を縮めてくるシルクジャスティスとの脚色の違いは、もはや歴然としている。

 しかし、この日大西騎手が演出した逃げは、完璧なものだった。最後にその差を一気に縮められたものの、ゴール板の時点でのサニーブライアンは、シルクジャスティスより1馬身前にいた。

 日本ダービーでは、2400m走りきった時点で一番前にいた者が、ただ1頭の勝者となる。大西騎手は、サニーブライアンが2400mを走り切った地点で先頭に立っていられるように、馬の力を完全燃焼させた。

 サニーブライアンは、日本ダービーを勝った。6番人気の低評価(発走除外のシルクライトニングを入れると7番目)を覆しての、見事な逃げ切り勝ちである。だが、馬の力を出し切り、完璧な逃げによって後続を封じ込めた競馬は、もはやフロックではあり得ない。府中の杜のスタンドは、二冠馬となったサニーブライアンに、今度こそ心からの祝福を送ったのである。