『人気はいらない』

 自信を深める大西騎手をよそに、ファンはサニーブライアンの大外枠を、むしろマイナス材料とみなした。理性、そして常識の上からは、当然の選択だったが、それにしてもサニーブライアンは、人気がなさすぎた。皐月賞サニーブライアンのダービーでの人気が、1360円の単勝7番人気である。皐月賞馬には考えられない人気薄だった。

 日本ダービー当日、1番人気に支持されたのは、大方の予想どおりにメジロブライトだった。予想では、メジロブライトを含めた何頭かの馬が、300円台から400円台あたりで横並びのオッズになるかと思われていたが、実際にはメジロブライト単勝が240円で、2番人気の弥生賞ランニングゲイルと3番人気の京都4歳特別勝ち馬シルクジャスティスが620円(人気は得票数の差)というから、これはメジロブライトの圧倒的な1番人気だった。

 サニーブライアンより上位人気となった6頭をみると、メジロブライトランニングゲイルシルクライトニングの3頭は、皐月賞で破ったはずの相手である。また、トキオエクセレントにはジュニアCで勝っているし、サイレンススズカにも弥生賞で先着している。そうであるにも関わらず、あまりに低いサニーブライアンへの評価は、当時のファンから、皐月賞の勝利をいかに軽く見られていたかを物語っている。

 もっとも、サニーブライアンにあまり人気が集まりそうにないことは、前日売りのオッズによってある程度予想されていた。記者からそのことを聞かされた大西騎手は

「1番人気はいりません。1着がほしいです」

と笑ったという。逃げ馬は、人気が落ちれば落ちるほどレースがしやすくなる。彼は、そのことを知り尽くしていた。