『逃げ馬二頭』

 皐月賞を終えた4歳馬戦線は、一気にダービーに向けて加速していった。ダービートライアルの青葉賞(Glll)ではトキオエクセレントが勝ったものの、時計が悪く、評価も高くなかった。むしろ、京都4歳特別(Glll)を大外からまくって豪快に差し切ったシルクジャスティスの方が、潜在能力への高い評価を得ていた。

 そして、ダービー最後の切符を賭けたプリンシパルS(OP)で、サニーブライアン陣営がひそかに恐れていた敵が名乗りを上げた。サニーブライアンが回避したプリンシパルSを勝ったのは、未完の大器サイレンススズカだった。

 サイレンススズカは、デビュー戦の新馬戦を大差で逃げ切ったものの、1戦1勝で駒を進めた弥生賞では、2番人気に支持されながらゲートをくぐる大暴れの末、大外発走、さらに大きく出遅れて皐月賞への出走は果たせなかった。しかし、自己条件に戻っての500万下をまたも大差で逃げ切り、天性のスピードでファンを魅了していた。

 サイレンススズカは、プリンシパルSではかかった馬に先頭を譲ったが、図抜けた先行力に変わりはなく、2番手で折り合う競馬を進めながら、直線では早めに先頭に立ってそのまま後続の猛追を抑えるという王道の競馬で優勝し、見事ダービーへの切符を手にした。

 後に稀代の逃げ馬へと成長し、「史上最強の逃げ馬」という呼び声もあがる恐るべき先行力を持っていたこの馬は、サニーブライアンと大西騎手にとって、メジロブライトランニングゲイルよりもはるかに恐ろしい存在だった。ダービーでも、何としても逃げたいサニーブライアン陣営だったが、サイレンススズカのスピードで競りかけられた場合、自らレースを支配するどころではなくなってしまう。スピードという観点からは、それまでのレース内容からサニーブライアンよりもむしろサイレンススズカの方に分があるように思われた。ファンの間でも、

「ダービーでハナを切るのはサイレンススズカではないか」

という予測は決して珍しいものではなかった。