『蹴飛ばされた皐月賞馬』

 ところが、サニーブライアンは、突然プリンシパルSを回避してしまった。なんと、レースを前にしての調教中に、未勝利馬に蹴飛ばされて外傷を負ってしまったのである。幸い軽症でダービーには間に合うとのことだが、調整過程が大きく狂ったことで、プリンシパルSにはとても使えなくなってしまった。

 他の馬に蹴飛ばされる・・・それは、サニーブライアンとその関係者にとっては不幸な事故なのだが、見方を変えて考えてみると、何とも情けない話である。馬は、もともと集団生活をする習性を持っている。集団生活をする動物にとって、仲間同士での序列は、自然の掟といっていい。馬も、本来ならば、自分よりも格上であると認めた相手に対しては「蹴飛ばす」ような失礼な行為に出るはずがない。つまり、サニーブライアンは未勝利馬によって「格下」と見られてしまったことになる。

 確かに、「強い競走馬=リーダー格の馬」という公式が常に成り立つわけではない。しかし、高い身体能力と精神力を持った前者は、同時に後者としての資質をも兼ね備えることの方が、遥かに多い。ところが、皐月賞馬であるはずのサニーブライアンは、未勝利馬からも「格下」とみなされて馬鹿にされたのである。この話を聞いて、失笑しながらサニーブライアンの印を削ったファンも、少なくなかった。

 そんな笑い話をよそに、騎手たちのダービーは既に始まっていた。大西騎手の戦いは、この時既に始まっていた。彼は、ダービーが始まる前、いや、皐月賞の直後から、早くもダービーのレースを支配し始めていたのである。