『見えざる力』
日本ダービーの枠順を決める抽選は、ダービー前々日の金曜日に行われる。サニーブライアン陣営からは、大西騎手がくじ引きのために出ていった。
大西騎手は、前々から枠順について「大外(18番)がほしい」と広言していた。理由は、皐月賞と同じである。皐月賞よりさらに400m距離が伸びるダービーだったが、自分のレースをするだけと心に決めた大西騎手にとって、もう距離も関係がない。
そして、くじを引いた大西騎手は、番号を見て大きく叫んだ。
「18番! 」
まさかとは思ったが、間違いなかった。まるで目には見えない何かがサニーブライアンの、大西騎手の背中を押しているかのような、思い通どおりの大外だった。柳の下に二匹のドジョウはいない、と同情する他の陣営をよそに、大西騎手は、勝利の予感に心底から震えていた。桜花賞のキョウエイマーチ、オークスのメジロドーベル、皐月賞のサニーブライアン・・・97年春のクラシックは、なぜかすべて大外枠の馬ばかりが勝っていたのも実に縁起がよかった。大西騎手は、勝利への手応えをはっきりと感じ取っていた。