『報われぬ勝利』

 こうして皐月賞馬となったサニーブライアンだったが、その勝利に対する評価は、悲しいまでに低かった。一部の競馬評論家からは「展開に恵まれた」だの「実力馬が不利を受けた」だのとけちをつけられ、挙句の果てに「ただのフロック」と言い切られたりもした。

 さすがに皐月賞馬をそこまでこき下ろす声はそう多くはなかったものの、11番人気での逃げ切りということで、多くのファンは、サニーブライアンの実力を測りかねていた。ノーマークで先手を奪い、2番手ながらこの上なく巧みにレースをスローに持ち込んで、ようやく2着とはクビ差の優勝・・・、しかも、彼の後方には、わずか2馬身の範囲内に4頭もの馬たちが押し寄せる大接戦だった。例年の皐月賞馬と違い、サニーブライアンが無条件で「ダービーの最有力候補」と呼ばれることはなかった。

 サニーブライアンの実力を測りたい・・・そんな願いを持つファンが注目したのは、サニーブライアンの次走予定だった。皐月賞馬ともなれば、日本ダービー直行というローテーションをとることが多い。しかし、サニーブライアンはダービーまでの間にもう一度、トライアルレースのプリンシパルS(OP)を使うことになった。

 中尾師によれば、それまでずっと短いレース間隔で走ってきたサニーブライアンは、むしろレース間隔を長くあけると、調子を崩したり飼い葉食いが落ちたりするおそれがあるということだった。中には

「どうせダービーはだめだから弱い相手に賞金を稼いでおく腹積もりだろう」

という意地悪な見方をする者もいたが、この年のプリンシパルSには皐月賞で6着に敗れて巻き返しを図るランニングゲイル皐月賞への出走は逸したものの大器と噂される快速馬サイレンススズカの出走も予定されていたことからすれば、「弱い相手」という批判は当てはまらない。この充実したメンバーの中でサニーブライアンがどのような走りをするのか。このレースは、サニーブライアンの実力がどの程度のものなのかを測るために、格好の物差しになる・・・はずだった。