『大波乱』

 有力馬がレースの流れをつかみ損ねてもがいているのを尻目に、先頭に立ってからのサニーブライアンは、直線ではさらに二の脚を使って、後続を突き放し始めた。この期に及んで、ようやく馬群は事態の深刻さに気づいたのか、先頭を行くサニーブライアンにいっせいに襲いかかる。1番人気のメジロブライトが、大外を回って直線に入ると、ようやく父譲りの末脚を炸裂させる。

 それまで実質的にレースを引っ張ってきたサニーブライアンも、限界に近づいていた。人気馬の多くは前を馬の壁に阻まれてもがいていたが、それでも好位でレースをしていた馬たちが押し寄せてくる。大外からは、メジロブライトが力ずくの豪脚で牙を剥く。

 しかし、前半完全に折り合ってレースを作ってきたサニーブライアンの脚は、ついに最後まで止まらなかった。2着に来たシルクライトニングにクビ差をつけて、サニーブライアンはクラシック第一関門を制圧した。これは11番人気と10番人気の組み合わせで、馬連は大荒れの51790円をつけた。一方、この展開ではいくら凄い脚があっても、最後方から中山のそう長くない直線だけで届くはずがない。1番人気のメジロブライトは4着に敗れ、父の雪辱を果たすことはできなかった。

 大西騎手にとって、この日はクラシック、いや、Glはおろか、サラブレッド重賞の初制覇となった。かつて

「口が足りなすぎる」

と言われた寡黙な男は、年輪を重ねて成長したのだろうか、優勝に舞い上がって何がなんだか分からなくなる騎手も多い中、インタビューではなかなかの愛嬌を発揮した。ダービーへの抱負を聞かれた彼は、

「ダービーも逃げます! 」

と答えてファンを喜ばせた。さらに、レース後のファンの集いでは、

「皆さんの夢を砕いてしまって申し訳ありません」

という挨拶から入って聴衆をさらに笑わせたりもした。サニーブライアンの勝利は、それほどの大波乱だったのである。