『単騎逃げ』
サニーブライアンの逃げと張り合うことが予想されていたサイレンススズカについて、レース後、何故逃げなかったのかという質問に対して、上村騎手は次のように語っている。
「もし馬に任せて先手を奪いにいったとしても、相手(サニーブライアン)は絶対に退かない。それでは共倒れだと思った」
プリンシパルSの時とは違ってとにかく前に行きたがるサイレンススズカを懸命に抑える上村騎手だったが、結果的に、それは馬の力をそぐことになってしまったようである。
もっとも、そのことで上村騎手だけを責めることはできないだろう。
「サニーは絶対に退かない・・・」
そう思っていたのは、上村騎手だけではない。すべての騎手が、すべての競馬関係者が、大西騎手によってこの先入観を植え付けられていた。彼らの全員が、レース前の時点で大西騎手の心理作戦の陥穽に陥っていたのである。
皐月賞馬は、16頭を引き連れて、堂々の大逃げをうつことに成功した。中尾師から「サイレンススズカが来たら抑えて行かせろ」と指示されていた大西騎手だったが、その必要はなくなった。