『主役たちの陰で』

 この年の皐月賞(Gl)で人気を集めると見られていたのは、メジロブライトランニングゲイルという2頭の父内国産馬だった。

 メジロブライトは、新種牡馬メジロライアンの初年度産駒である。メジロライアンは、現役時代にはGlで「差して届かず」という惜敗を繰り返し、カリスマ的な支持を集めた人気馬だったが、種牡馬としては、初年度から3歳女王メジロドーベル、そしてメジロブライトを出して大成功していた。メジロブライトは、3歳暮れのラジオたんぱ杯3歳S(Glll)、4歳緒戦の共同通信杯4歳S(Glll)を連勝して皐月賞に駒を進め、春のクラシックの主役というに恥じぬ実績を誇っていた。スプリングSでこそ展開が向かずに2着に敗れたものの、世代の実力ナンバーワンは、この馬と見る向きが多かった。

 また、ランニングゲイルは父ランニングフリーという渋さで独特の人気を集めていた。ランニングフリーは、9歳まで現役で走り、天皇賞に5回入着したという名脇役である。種牡馬入りしてからの彼はまったく人気がなく、初年度産駒は3頭、2年目産駒も9頭しかいないという惨状であり、その数少ない産駒もさっぱり走らなかったことから、「もう駄目だ」といわれ始めていた。そんな時期に現れた3年目産駒・・・わずか4頭の中から現れたランニングゲイルは、その血統ゆえに父内国産馬ファンの感激の涙を誘ったばかりでなく、武豊騎手を鞍上に弥生賞で3馬身差の圧勝を遂げ、実績の面でも一気にクラシックの主役級にのし上がっていた。

 さらに、毎年クラシックを沸かせる輸入種牡馬の仔も、皐月賞に大挙して押し寄せていた。2年続けて皐月賞で1、2着を独占したサンデーサイレンスが3頭、そして絶好調のブライアンズタイムに至っては、サニーブライアンなど5頭を送り込むことに成功していた。

 しかし、ブライアンズタイム産駒の大将格は、骨折による半年のブランクがありながら復帰戦の毎日杯(Glll)で2着に入って能力の片鱗を見せた3戦2勝のヒダカブライアンとされていた。ジュニアC優勝が最大の実績というサニーブライアンは、ファンからはほとんど注目されていなかった。