『引き寄せた幸運』

 戦前のサニーブライアンの扱いも、馬券上の人気に比例して、かなり小さなものにとどまった。大西騎手は、皐月賞への抱負を問われた際、敢然と「逃げ宣言」をしている。弥生賞若葉Sで逃げられなかった悔いを、本番でも繰り返したくはなかった。だが、若葉S4着で株を下げたばかりの2勝馬による逃げ宣言を意に介するマスコミは、ほとんどなかった。多くのスポーツ紙が「ブライト必勝」「ゲイル急上昇」といった活字を大々的にぶち上げる一方で、大西騎手の逃げ宣言は競馬面の隅の方にちらりと載る程度で、それも展開の推理の材料くらいの扱いしかしてもらえなかった。

 サニーブライアンの枠順の意味についても、ほとんど報じられることがなかった。抽選の結果、サニーブライアンのゲートは、8枠18番の大外となった。普通の逃げ馬にとって、大外枠を引くことは、最初のコーナーまでに余計に距離を走らなければならない分、不利になるとされている。

 しかし、大西騎手は抽選の前から

「外なら外ほどいい。できれば大外がいい」

と語っていた。弥生賞若葉Sのスタートで後手を踏んだことからも分かるとおり、サニーブライアンは、逃げ馬のくせに、スタートはあまりうまくない。スタートと同時に、好位につけるために外から馬が殺到してくる内枠だと、少しの出遅れで馬群に閉じ込められてしまう。その点、外枠からの発走ならば、スタートで少しぐらい出遅れても容易に挽回できる。また、外からかぶせられることもなく、気持ちよく逃げることができる・・・。皐月賞の状況は、大西騎手の思惑通りとなりつつあった。