『レースを支配する』

 皐月賞当日、ふたを開けてみると、1番人気はメジロブライト、2番人気はランニングゲイルとなり、「父内国産馬」の人気の根強さを物語る人気情勢となった。もっとも、莫大な金が動く馬券の人気が、心情馬券のみで大きく動くはずはない。この2頭が、いずれも人気にふさわしい実績と実力を兼ね備えていたことは事実である。

 彼らに続く支持を集めたのは、輸入種牡馬の産駒たちが主体で、ブライアンズタイム産駒ではヒダカブライアン(3番人気)、サンデーサイレンスの仔では名牝ロジータとの間に生まれたオースミサンデー(4番人気)といったところが人気になっていた。翻ってサニーブライアンを見ると、単勝5180円の11番人気で、ブライアンズタイム産駒の中では最も人気が低かった。

 しかし、あまりの人気のなさは、大西騎手に思い切った競馬をさせやすくする結果となった。スタートと共に勢いよくゲートを飛び出したサニーブライアンは、スタート直後こそ外にヨレるような仕草を見せたものの、すぐに体勢を立て直し、そのまま先頭に立った。ここまでは大西騎手の計算どおりである。

 その後、サニーブライアンに外からかぶせられる形となったテイエムキングオーが、口を割ってかかり気味に競りかけてきたことは、大西騎手にとって誤算だったかもしれない。だが、ここでの大西騎手は、無理してハナにこだわらずにテイエムキングオーを先行させ、自分は2番手で「実質逃げ」のレースをする作戦に切り替えた。

 サニーブライアンは、気性が素直なため、騎手の思いどおりにレースを進めることができる馬だった。テイエムキングオーを行かせても、サニーブライアンはまったく折り合いを欠く様子がない。人気のメジロブライトは、予想どおりとはいえ最後方、さらにランニングゲイルも馬群のまっただ中で、ライバルの騎手たちの目は、明らかに後ろを向いていた。サニーブライアンの前にもう1頭いるとはいえ、それは計画性も何もなく行ってしまったに過ぎず、きっちり折り合ったサニーブライアンのそれとは異質である。この時レースの主導権を握っていたのは、あくまでもサニーブライアンだった。

 スタートから飛ばしたテイエムキングオーは、案の定向こう正面あたりで後退を始めた。サニーブライアンは、テイエムキングオーがバテたと見るや、第3コーナーで再び先頭を奪い返し、そこからいつ仕掛けるかのタイミングをうかがいはじめた。サニーブライアンの余力は十分残っていたし、後方ばかりを気にしている後続との差も、縮まる気配はなかった。