『早すぎた挫折』

 この年の有馬記念の大本命馬は、前年の菊花賞(Gl)、この年の天皇賞・春(Gl)を制し、天皇賞・秋(Gl)でも後続に6馬身差をつけて1着入線(降着)を果たしたメジロマックイーンとみられていた。だが、岡部騎手はレオダーバンについて

「中距離ならマックイーンとも好勝負できる」

とその実力に太鼓判を押していた。メジロマックイーンへの挑戦・・・それは、レオダーバンにとってはトウカイテイオーの呪縛を離れ、誰もが認める一流馬となるための第一歩となるはずだった。

 しかし、そんなレオダーバンを待っていたのは、誰も予期しない悲運だった。有馬記念を直前に控えたレオダーバンは、右前脚に屈腱炎を発症してしまったのである。屈腱炎・・・脚がエビの腹のように腫れることから「エビ」ともよばれるこの症状は、競走馬にとって不治の病と呼ばれるものであり、競走能力も容赦なく奪っていく悪魔の病だった。

 レオダーバンの父のマルゼンスキーも慢性的な脚部不安を抱えて、最後は屈腱炎の悪化を理由に引退している。レオダーバンは、マルゼンスキー産駒の宿命・・・走る子ほど脚部不安を逃れられず、代表産駒であるホリスキーサクラチヨノオーらがことごとく屈腱炎で競走生命を絶たれたという血の宿命から逃げ切ることができなかったのである。それは、父から受け継いだ高い能力の代償だった。