1998-01-01から1年間の記事一覧

『ガラスの脚』

しかし、そんなレオダーバンの生涯唯一のダート戦は条件戦、しかも目立った相手もいなかったにも関わらず、4着に破れてしまい、奥平師はこの日のレースを限りに、レオダーバンのダート適性に見切りをつけざるを得なくなった。素軽いスピードが身上のレオダー…

『双葉より芳し』

生まれたばかりのレオダーバンは、生まれながらに脚部不安を抱えていた。マルゼンスキー産駒の特色として「走る子ほど脚部不安に悩まされやすい」という点がある。マルゼンスキー自身がそうだったように、その代表産駒となった子供たちも、多くが脚部不安に…

『偉大なる父』

レオダーバンの父となるマルゼンスキーは、ある程度の競馬ファンにならば説明を要しないほどの名競走馬にして名種牡馬である。「最後の英国三冠馬」Nijinsky ll産駒の持込馬としてデビューした現役時代も通算成績8戦8勝の戦績を残し、朝日杯3歳Sで大差勝ちし…

『夢を見るもの』

レオダーバンは、伝説の名馬マルゼンスキーと、1勝馬シルティークとの間に生まれた子である。 シルティーク自身は、中央競馬で1勝を挙げたに過ぎない二流馬だったものの、古くはビューチフルドリーマーまでたどり着く由緒正しい牝系、そして早田氏自身が導入…

『残されたもの』

しかし、いい繁殖牝馬と高い種牡馬を持てば、たちまちいい成績を上げられる・・・というわけにはいかないのが馬産の難しいところである。モミジの子供たちはなかなか勝てず、ヴァイスリーガルに至っては失敗といっていい成績しか残せなかった。彼らへの期待…

『内地から来た大ぼら吹き』

早田氏がモミジの稼いでくれた資金を元手として新冠に開いた牧場・・・それが早田牧場新冠支場である。早田家にしてみれば、文字どおりの「出家」ではないにしろ、跡取り息子が福島を離れて北海道に牧場を開いてしまったのだから、山伏の予言がまったく的外…

『彼を生み出した男』

レオダーバンの生まれ故郷である早田牧場新冠支場は、もともと福島に本拠地を置いていた早田牧場の長男だった早田光一郎氏が、サラブレッドの生産に本格的に取り組む夢を実現するため、北海道に渡って開設した牧場である。「新冠支場」というと、さらに大き…

『兵どもが夢の跡』

2002年12月、日本の競馬界に、凄まじい衝撃とともにひとつの情報が流れた。1994年の三冠馬ナリタブライアンをはじめとする90年代の名馬たちを数多く生産してきた早田牧場新冠支場を含む早田牧場の経営が破綻し、グループ企業のCBスタッドなどとともに、札幌…

■第005話―獅子の魂、運命に抗する「レオダーバン列伝」

1988年4月25日生。牡。鹿毛。早田牧場新冠支場(新冠)産。 父マルゼンスキー、母シルティーク(母父ダンサーズイメージ)。奥平真治厩舎(美浦)。 通算成績:9戦4勝(旧3-6歳時)。主な勝ち鞍:菊花賞(Gl)、青葉賞(OP)。 かつて彼を取り巻いた多くのも…

『中央と地方の狭間で』

近年の傾向として、中央競馬と地方競馬の交流は著しく進むようになった。97年に導入された統一グレード制により、中央馬の地方遠征もいまや珍しいものではなくなった。さらに、地方馬が地方在籍のまま、中央の統一グレードレースはもちろんのこと、クラシッ…

『運命の暗転』

脚質もそれまでの追い込み一辺倒から脱却し、新たな距離適性を開拓したドクタースパート陣営は、翌年の天皇賞・春(Gl)に向けて意気あげる結果となった。・・・しかし、彼らが抱いた希望が実を結ぶことはなかった。ドクタースパートは、両前脚に屈腱炎を発生…

『予兆なき復活』

天皇賞・秋(Gl)でいいところなく12着に敗退したドクタースパートは、次走をステイヤーズS(Glll)に定めた。ステイヤーズSは中山の芝3600mで行われ、障害を除けば、中央競馬で最も長距離の重賞となっている。それまでのドクタースパートが走った最長距離が、4…

『先の見えぬ闇』

こうして皐月賞馬となったドクタースパートだが、その後の彼を待っていたのは、あまりに長いトンネルだった。 皐月賞に続く日本ダービー(Gl)では、波乱となった皐月賞の結果が例年のように直結するとはみてもらえず、1番人気が重賞未勝利のロングシンホニー…

『―おめでとう』

しかし、ゴール前で猛然と追い込んできたのは、的場騎手が恐れていたサクラホクトオーではなかった。前走の400万下(現500万下)を勝ち上がったばかりで、重賞初挑戦を皐月賞に持ってきたウィナーズサークルだった。過去に挙げた2勝はいずれもダートでのもので…

『迫り来る影』

スタート当初は中団からの競馬になったドクタースパートだったが、この日は徐々に前方へ進出を開始していった。この大切なレースで、最悪の馬場状態は、ドクタースパートに味方していた。サクラホクトオーをはじめとする他の馬たちは、馬場を苦にしてなかな…

『夢を背負って』

皐月賞(Gl)当日、ファンは3歳王者の実力を信じ、弥生賞で惨敗したサクラホクトオーを1番人気に支持した。ドクタースパートは3番人気となった。 だが、レース当日の中山競馬場は、弥生賞ほどではないにしても、馬場状態は最悪に近いものだった。弥生賞のよう…

『良血馬の蹉跌』

重賞を勝ったことで、中央でも通用する実力を示したドクタースパートは、翌年のクラシックに向けて、注目馬の1頭として位置づけられるようになった。 しかし、この時点では、1989年牡馬クラシック戦線の主役と見られる馬は、別にいた。この年の日本ダービー(…

『道営の星』

北の国からやって来たドクタースパートに対し、最初、中央競馬ファンの視線は懐疑的だった。低レベルな道営競馬からやって来たダート馬・・・そんなイメージは、それまでの道営競馬の状況に照らす限り、必ずしも不当な偏見とは言い切れない側面があったこと…

『託された思い』

ところで、有望な地方馬がマル地として中央に転入する場合、その馬を取り巻く人々の間に様々な葛藤が生じることは避けられない。地方競馬の馬主資格と中央競馬の馬主資格はまったく別物であるから、地方競馬の馬主が中央競馬の馬主資格を持っていない場合、…

『北の国から』

しかし、母と同じ成田春男厩舎へ入厩したドクタースパートは、兄とは違ってみるみる頭角を現し始めた。デビュー直後の2戦は3着、2着と惜しい競馬を繰り返したものの、その後は見事に3連勝を飾ったのである。ドクタースパートは、その勢いで道営競馬の3歳馬チ…

『運命の名前』

こうして奇跡的に繁殖牝馬となることができたドクターノーブルは、松岡氏のたっての要望により、2年続けてホスピタリティと交配されることになった。こうして生まれた2頭の全兄弟に、松岡氏はとっておきの名前をつけることにした。自分の職業である小児科医…

『奇跡の母』

ドクタースパートは、新冠・須崎光治氏の生産馬である。後にマル地の強豪として名を馳せるドクタースパートだが、生まれた時からそんなことが分かろうはずもない。しかし、ドクタースパートの血統は、彼のその後の運命を暗示するものだった。 ドクタースパー…

『伝説のマル地』

ドクタースパートの父ホスピタリティは、1979年に生まれた。彼と同世代で有名な馬には、黄金の逃げ馬ハギノカムイオー、菊花賞を驚異のレコードで制したホリスキー、ノーザンテーストの後継種牡馬として成功したアスワンらがいる。彼らがクラシック戦線で死…

『マル地の父子の物語』

中央競馬には、「マル地」と呼ばれる馬がいる。「マル地」とは、地方競馬からの転入馬のことであり、レースにおける馬柱では、常に特別なマークをつけられ、そうでない馬たちとは区別される存在である。 「マル地」・・・それは、中央競馬と地方競馬が別々に…

■第004話―伝説の許されざる時代に「ドクタースパート列伝」

1986年4月29日生。牡。鹿毛。須崎光治(新冠)産。 父ホスピタリティ、母ドクターノーブル(母父タケシバオー)。柄崎孝厩舎(美浦)。 通算成績:18戦7勝[JRA:12戦3勝/道営:6戦4勝](3-5歳時)。 主な勝ち鞍:皐月賞(Gl)、京成杯3歳S(Gll)、ステイヤ…

『今ひとたびの―』

ハクタイセイの1997年度の種付けは、ついにゼロとなった。種牡馬としての将来は、暗いといわざるを得ない。彼が今している仕事は、人気輸入種牡馬のアテ馬だという。 ハクタイセイの仔は、地方ではぽつぽつと勝っているものの、中央での勝ち上がり馬はいない…

『流れ種牡馬』

ハクタイセイの種牡馬生活は、辛いものとなってしまった。ハイセイコーの血は、革新と淘汰が続く馬産界では、既に時代遅れのものとなりつつあったのである。 静内で供用された初年度(1992年)は、26頭の繁殖牝馬に種付けして18頭の産駒を得るにとどまった。…

『さらば戦いの日々』

ハクタイセイは、その後、調教中に屈腱炎に見舞われて長期休養を強いられることになった。その症状は重く、戦列離脱の期間は長引いた。それでも布施師ら関係者の苦労によって、ハクタイセイは翌年の安田記念(Gl)にようやく登録するところまでたどりつき、…

『遥かなる試練』

ハクタイセイにとって、この日のダービーは、不運な展開だった。距離適性で劣ることは分かっていたのに、直線でアイネスフウジンをとらえに行ける馬は、自分しかいなかった。スタミナが切れる最後の直線で、本来勝負を賭けるべき位置よりも早く勝負を賭けな…

『血の宿命(さだめ)』

結果的に、武騎手の判断は裏目に出た。ハクタイセイは、いったんアイネスフウジンとの差を詰めに行ったものの、アイネスフウジンはなんとそこからもう一度加速したのである。究極のスタミナ勝負に持ち込んだアイネスフウジンの前に、ハクタイセイは完全に翻…