『予兆なき復活』

 天皇賞・秋(Gl)でいいところなく12着に敗退したドクタースパートは、次走をステイヤーズS(Glll)に定めた。ステイヤーズSは中山の芝3600mで行われ、障害を除けば、中央競馬で最も長距離の重賞となっている。それまでのドクタースパートが走った最長距離が、4歳時の有馬記念(Gl)と鳴尾記念(Gll)での芝2500mであり、しかもそれらは14着、6着という無惨な結果に終わっていることからすれば、無謀な挑戦であるといわれても仕方がなかった。

 ところが、ドクタースパートの突然の復活劇は、そのステイヤーズSで起こるのだから、競馬とは分からないものである。しかも、その勝ちタイムはレコードタイムというおまけつきでもあった。それまで直線一気の追い込みに賭けてきたドクタースパートだったが、このレースではそのスタイルを放棄し、中団から徐々に進出して第3コーナーで先頭に立つ競馬を進めた。そして、そのまま一気にゴールまで押し切ってしまったのである。

 この時2着に入ったミスターアダムスは、後に天皇賞・春(Gl)でメジロマックイーンの2着に食い込んだ真性のステイヤーだった。そんな相手を3600mの舞台、それもレコードタイムで破って勝つことは、ステイヤー適性がない馬にできる芸当ではない。ドクタースパートにとっての1年8ヶ月ぶりの美酒は、同時にステイヤーとしての資質を示し、彼の新しい可能性を切り拓くきっかけとなる・・・はずだった。