『遥かなる試練』

 ハクタイセイにとって、この日のダービーは、不運な展開だった。距離適性で劣ることは分かっていたのに、直線でアイネスフウジンをとらえに行ける馬は、自分しかいなかった。スタミナが切れる最後の直線で、本来勝負を賭けるべき位置よりも早く勝負を賭けなければならない状況に追い込まれてしまったのである。レース後、一部で武騎手の騎乗を責める向きもあったが、これは酷というものだろう。第4コーナーでのハクタイセイは、まさに前門の虎・アイネスフウジンと後門の狼・メジロライアンの間にあって、勝つためにはそこで動くより他に策はなかった。

 しかし、ハクタイセイと武騎手は、敗れた。日本ダービーで、完全に沈んだ。武騎手にとって、それまでのダービーで騎乗した馬たちは、もともと勝ち負けは期待できない人気薄の馬ばかりだったが、ハクタイセイは違っていた。2番人気の馬に騎乗しながら結果は5着なのだから、これは完敗である。

 その後、武騎手はダービーで多くの有望馬に騎乗したが、なぜかなかなか勝てなかった。ナリタタイシンダンスインザダークランニングゲイル…。彼がダービージョッキーに輝くのは、1998年(平成10年)のスペシャルウィークまで待たなければならなかったのである。