『血の宿命(さだめ)』

 結果的に、武騎手の判断は裏目に出た。ハクタイセイは、いったんアイネスフウジンとの差を詰めに行ったものの、アイネスフウジンはなんとそこからもう一度加速したのである。究極のスタミナ勝負に持ち込んだアイネスフウジンの前に、ハクタイセイは完全に翻弄されてしまった。逆に、アイネスフウジンを捉えることもできぬまま、むしろずるずると後退していく。前を行くアイネスフウジンより先に、後ろを行くハクタイセイの余力が尽きてしまった。

 そんなハクタイセイの横を雷電の如く駆け抜けていったのは、三強の一角メジロライアンだった。直線に賭けた横山騎手の目に映っていたのは、先頭を行くアイネスフウジンただ1頭だった。そればかりか、ホワイトストーン、ツルマルミマタオーといった格下の馬たちまでが、ハクタイセイを交わして行った…。

 レースはアイネスフウジンがレコードで逃げ切り、東京競馬場は「ナカノ・コール」に包まれた。今でこそGlの風物詩となった勝者を讃えるコールだが、その始まりはこの時の自然発生的なものである。メジロライアンもまた、アイネスフウジンの前に1馬身4分の1届かず、2着に終わった。だが、メジロライアンが三強の意地を見せたのに対し、ハクタイセイは5着に沈んだ。血の宿命は、やはりハクタイセイの脚を捕えて離さなかったのである。