『悔い残る敗戦』

 このように波乱のスタートとなった皐月賞は、それを取り巻く場内の雰囲気も、やや異常なものとなった。メジロライアンの位置取りはいつもどおりの後方であり、スタートの出遅れはいつものことと思えばあまり影響はないはずだった。しかし、若い横山騎手は、Glで人気馬に乗るプレッシャーに加えてのこの異様な空気で、すっかり冷静さを失ってしまった。メジロライアンにつながる手綱は人の焦りを伝え、人の焦りはそのまま馬の焦りにつながってしまった。

 メジロライアンは、道中で完全に折り合いを欠いていた。さらに、横山騎手は、激しいレースの中で内から外へと持ち出すタイミングもつかみ損ねてしまい、メジロライアンは不利なレース運びを強いられてしまった。

 アイネスフウジンは、第4コーナー付近で先頭に立つとそのまま逃げ込みを図ったが、そのアイネスフウジンを追い詰める影が迫っていた。その影の主は、道中に折り合いを欠いたメジロライアン雄大鹿毛の馬体ではなく、5連勝で関東へ乗り込んできた関西の雄ハクタイセイ芦毛の馬体だった。そのころメジロライアンは、第4コーナーで前にできてしまった馬の壁をさばくのに四苦八苦していた。

 レースはハクタイセイがクビ差アイネスフウジンを差し切って優勝した。メジロライアンは最後に追い込んできたものの、前の2頭には遠く及ばず、阪神3歳S(Gl)を制した西の3歳王者コガネタイフウとの競り合いを制して3着に持ち込むのがやっとだった。

 折り合いを欠いた上に、外に持ち出すタイミングを失して不利を受けた挙げ句に脚を余した形になったメジロライアン陣営にとって、皐月賞は悔いが残らないといえば嘘になるレースだった。しかし、メジロライアンはその後、これとよく似た光景を何度も何度も繰り返し、ファンを何度も悲嘆に暮れさせることになる。メジロライアンの原風景は、この皐月賞に始まったのかもしれない。