『想い〜メジロとダービー〜』

 もっとも、3着に敗れたメジロライアン陣営に失望はなかった。確かにメジロライアンは、皐月賞で敗れた。しかし、メジロライアンは、天皇賞有馬記念を勝ったアンバーシャダイの子であり、さらに姉のメジロフルマー日経賞目黒記念を勝っている重厚な長距離血統である。また、末脚勝負になってこそ最も実力を生きすことができるこの馬にとって、小回りで直線が短い皐月賞の条件は決して有利なものとは言えなかった。しかし、舞台が東京2400mコースに替わり、直線が長く、コーナーも広くなる上に距離も伸びるダービーでは、メジロライアンの地力が必ず生きてくる。メジロライアンを取り巻く人々は、そう信じていた。

 もともと「ダービー」という4文字には、日本のホースマンたちを虜にする魔力が宿っている。特に、メジロライアンを送り出したメジロ牧場にとって、その言葉の響きはこの上なく重かった。メジロ軍団はそれまで幾度となくダービーに優秀な馬を送り込んできたものの、勝利の栄冠にはどうしても手が届かなかった。メジロオーは世紀の大接戦の末ハナ差に泣き、メジロモンスニー三冠馬ミスターシービーの軍門に下った。そして、時を遡ること2年前には、メジロライアンと同じ奥平厩舎に託したメジロアルダンが、直線でいったん先頭に立ちながら、力尽きたはずのサクラチヨノオーにもう一度差し返され、まさかの敗北を喫していた。

 メジロ牧場といえば、日本を代表するオーナーブリーダーのひとつである。マーケットブリーダーが中心の日本の馬産界において、筋の通った配合にこだわり、自家血統を長い年月に渡って育て続け、しかも多くの名馬を生み出してきたメジロ牧場の存在は、日本の馬産界において特異な存在であるとともに、多くのホースマンたちの尊敬の対象にもなっている。

 ところが、そのメジロ牧場が、創設以来ダービーは1度も勝っていない。これは、数々の栄光と共に歩んできたメジロ牧場の人々にとって悔恨のタネだった。