『時は来た』

　こうして春のクラシックを3着、2着と惜敗したメジロライアンは、夏も放牧に出ず、函館記念（Glll）を目指しての調教が続けられることになった。しかし、その調教中に脚を捻挫したため調整過程に狂いが生じ、函館記念は回避して、次走は菊花賞トライアル京都新聞杯（Gll）まで待つことになった。

　夏を越して、秋競馬での4歳馬の勢力図は、春とは大きく変わっていた。まずダービー馬アイネスフウジンは、ダービーのレース中に痛めた脚部の状態が悪化して、現役生活の続行を断念せざるをえなくなった。ダービーでの世紀の大逃げの代償は、それほどに重かったのである。また、皐月賞馬ハクタイセイも調教中の故障が原因で長期離脱を余儀なくされ、結局その後2度とレースに使われることなく翌年には引退することになった。春に3強を形成したうち2頭までが、ダービーを最後に故障でターフを去ったのである。

　そんな情勢の中で、残された1頭は夏を越してさらにたくましくなって帰ってきた。春のクラシックで惜敗を続けたメジロライアンは、春の無念を晴らすべく、残された最後の一冠へ向けて、京都新聞杯で春以上の迫力を感じさせる豪脚を披露した。久々であるにもかかわらず、菊花賞を目指す同期たちを相手に、重馬場を切り裂いてなんとコースレコードを叩き出したのである。

　メジロライアンは、父アンバーシャダイや姉メジロフルマーの実績、そして彼自身のそれまでのレース内容から、むしろ距離が伸びていいタイプとされていた。彼の戴冠を阻んだ春の3強のうちあと2頭も、今はもういない。京都新聞杯で文句なしの勝ち方をしたメジロライアンが菊花賞の最有力候補となってくることは、誰の目にも明らかだった。