『差して届かず』

 しかし、最後にはアイネスフウジンの脚もさすがに止まったものの、前半の精密機械のような逃げはついに彼に栄光のゴールを勝ち獲らせる原動力となった。もしゴール板があと100、いや、50メートル先にあれば、結果は逆転していただろう。だが、現実には完璧をも超えた逃げの前に、メジロライアンの追撃は1馬身1/4差及ばなかった。2分25秒3、疾風が府中を駆け抜けたこのタイムは、2年前にサクラチヨノオーが記録したそれまでのダービーレコードを1秒上回る驚異的なタイムだったのである。このレコードは、トウカイテイオーミホノブルボンナリタブライアン…。その後ダービーを勝ったあまたの名馬たちによってもいまだ破られず、1999年になってようやくアドマイヤベガタイレコードに並んだにとどまっている。

 このレースに関していうならば、横山騎手の騎乗はほぼ完璧、100%に近いものだったということができる。しかし、ダービーを勝つためには、この日の中野騎手のような120%の騎乗が必要だった。横山騎手にとっての初めての惜敗は、メジロ牧場にとってはメジロオーメジロモンスニーメジロアルダンに次ぐ、4度目のダービー2着惜敗となった。奥平師にとってもメジロアルダンに続く無念の敗北である。勝者と敗者を隔てた1馬身4分の1差は、敗者にはダービーを勝つことの難しさを示す大きな大きな壁となった。