『大本命』

 菊花賞(Gl)当日、メジロライアンはダービーに続いて1番人気に支持された。春の実績、そして秋緒戦の勝ち方を見れば、むしろ当然ともいえよう。2番人気はダービー3着、セントライト記念(Gll)優勝のホワイトストーンだが、単勝支持率に直すと1番人気の馬の半分以下に過ぎない。菊花賞の主役は紛れもなくメジロライアンだった。枠順は大外の18番。ファンの注目は、淀3000mを舞台に無冠の大器の豪脚が爆発するかどうかに集まっていた。主戦の横山典騎手はもちろん、メジロライアンをこの日のために仕上げた奥平師も自信を持っていた。もっとも、彼の胸中には一つの小さな不安もわだかまっていたのだが。

 菊花賞は、マイネルガイストの逃げで幕を開けた。しかし、同じ逃げ馬でも春の逃げ馬アイネスフウジンと違って、この馬にはスピードとスタミナの高度のバランスはなかった。特にダービーでは精密機械のように完璧な逃げを打ったアイネスフウジンと違い、マイネルガイストは自分が作り出したはずの乱ペースに自分自身の走りすら狂わされていく。

 乱ペースの中では、後続の馬も影響を受けざるをえない。メジロライアンも、最初は速めの流れを見越して中団より後ろに落ち着いていたが、次第にペースが落ち着いてくると、ゆっくりと、しかし確実に前方へ進出の構えを見せた。

 マイネルガイストは前半無理して引っ張ったことが祟って2周目の上り坂であっさりと力尽きた。しかし、菊花賞とは真のスタミナ、そして真の強さが問われるレースである。そのレースが2周目の第3コーナーまで進むと、中途半端な馬たちにはもはや、前に出てくる余力など残っていなかった。気が付くと、出走しただけで満足すべきレベルの馬たちは既に淘汰され、前にいるのは春の実績馬か、急成長中の上がり馬ばかりになっていた。

 そんな中で、1番人気のメジロライアンは外、外と回りながらも直線入口では3、4番手まで押し上げてきた。ダービーで、京都新聞杯で見せた豪脚がもう一度炸裂すれば、大願成就は容易な位置取りである。