『彼を生み出した男』

 レオダーバンの生まれ故郷である早田牧場新冠支場は、もともと福島に本拠地を置いていた早田牧場の長男だった早田光一郎氏が、サラブレッドの生産に本格的に取り組む夢を実現するため、北海道に渡って開設した牧場である。「新冠支場」というと、さらに大きな「本場」が他にあるような印象を受けるが、実際には福島にある早田牧場の「本場」は、サラブレッドの生産にはほとんど携わっていなかった。

 福島では地元の名士として知られていた早田牧場の悩みは、約70年間にわたって男の子が生まれなかったことだった。早田氏の父親も他家から迎えられた婿養子であり、早田氏はそんな早田家に70年ぶりに生まれた跡取り息子だった。そんな早田氏には、彼が生まれた時、家に突然山伏が現れて

「この子は出家する」
「この子には馬頭観音がついている」

と予言したため、早田家は大騒ぎになったというエピソードがある。

 少年時代は馬にはほとんど関心がなかった早田氏だったが、馬頭観音に導かれたように高校時代に乗馬に熱中するようになり、やがて馬産に強い関心を持つに至った。彼は、実家が副業というより趣味の域を出ない程度でしかしていなかった馬産・・・特にサラブレッド生産を、自らの天職とすることを決意した。そして、大学を卒業すると、馬産を学ぶためにカナダへと旅立ち、広大な大地でサラブレッドに関するすべてを学んだのである。

 やがて早田氏は、実家の援助と自らの才覚、努力に加え、カナダで買った牝馬のモミジが走りに走って3年続けてカナダの牝馬チャンピオンに輝き、日本円にして2億円以上の賞金を稼ぐという幸運にも恵まれた。モミジがあまりにも強かったため、早田氏は現地の人々から

「わざわざ日本からやってきて賞金を持っていくことはないじゃないか」

と再三にわたって「抗議」されたとのことである。ちなみに、この「モミジ」という名前は、カナダ国旗のメープルリーフに因んでつけたというが、早田氏がメープルリーフがモミジではなくカエデであることを知ったのは、その後のことだった。