『名馬の涙』

 続く有馬記念(Gl)では、レガシーワールドは激走の疲れか、トウカイテイオービワハヤヒデの死闘から遠く離された5着に敗れた。掲示板を外さないのはさすがだが、レガシーワールド本来の走りでなかったことは否めなかった。

 一部の一流馬は競馬の意味を知っており、敗れると悔しさで涙を流すという。最も有名なのは天皇賞・秋(Gl)でギャロップダイナに差されたときの皇帝シンボリルドルフだが、一説によれば、この有馬記念の後のレガシーワールドも、厩舎の馬房の中でひとり涙を流したという。はたしてその胸中にあったのは、彼等に次元の違う競馬を許してしまった自分自身への悔しさなのか、それとも日のあたる道を当然の様に歩んでいける2頭の稀代のスターホースへの屈折した思いなのか。

 ちなみに、レガシーワールドの僚馬だったミホノブルボンについては、菊花賞ライスシャワーに敗れた時のこんな逸話がある。レースが終わって競馬場からミホノブルボンを連れ出そうとすると、ミホノブルボンウィナーズサークルの方へ行きたがり、どうして口取り式がないのか、と不思議そうな顔をしていたという。同じ負けレースの後なのに、えらく違った反応である。戸山師が手懸けた最後の二大傑作ともいうべきこの2頭の性格が分かるようで面白い、と思うのは筆者だけだろうか。