『獅子の魂、いまだ死せず』

 自らは種牡馬として大成功を収めたマルゼンスキーだが、その直系は現在、断絶の危機にある。マルゼンスキーの子供たちは、ホリスキースズカコバンを見ればわかるように、種牡馬としてそこそこの成績は残すものの、Gl級の後継馬を残すことができないまま高齢化しつつある。サクラトウコウネーハイシーザーを出しただけでは、マルゼンスキーほどの名馬の直系としては、あまりに物足りない。それだけにレオダーバンには大きな期待がかけられていたが、その期待は空振りに終わった形である。

 しかも、レオダーバン自身の情勢の厳しさだけでなく、彼の周囲で起こるのも悪い事件ばかりだった。2000年には、彼の名前が新聞・・・それも専門紙やスポーツ紙だけでなく、一般紙までにぎわせた。・・・だが、それは現役時代の馬主が脱税で逮捕されたというありがたくないニュースによってだった。そして2002年暮れの、生まれ故郷・早田牧場の破産・・・。レオダーバン菊花賞制覇の時期から一気にのし上がり、一時

社台ファームに迫る牧場があるとすれば、早田牧場しかない」

とまでいわれた新興の大牧場は地上から消え去り、「内地から来た大ぼら吹き」から「馬産地の風雲児」となったはずの早田氏も、牧場を失っただけにとどまらず、破産後に判明した一連の事情の中で、事実上すべてを失った。レオダーバンの周囲は、悲しいまでに夢の残骸に満ちている。

 だが、そんな過酷な運命の中で、レオダーバンは今も生きている。自分自身の力ではどうにもならない悲運に押し流されそうになりながら、懸命にそれに抗い、踏みとどまっている。決して逆境に屈することなき彼の魂は、まさに彼自身の名の一部に冠せられた百獣の王・・・獅子という名に恥じない誇り高きものである。

 レオダーバン菊花賞を勝ってから、今や10年以上の時が過ぎ去った。かつては未知の可能性と勢いによってファンの注目を集め、ついに菊花賞を勝ったレオダーバンだが、今の彼に、もはや未知の可能性も勢いも残されていないのかもしれない。・・・だが、諦めた時にすべての戦いは終わる。レオダーバンは、まだ終わってはいない。わずかな可能性に賭けて、反転攻勢の機会を待ち、運命に抗い続けている。そんな彼の戦いを最後まで見届けることは、運命という名の人の手によって、今なお彼を翻弄し続けている私たち人間が、せめて彼のために果たさなければならないせめてもの責務なのかもしれない・・・。[完]

記:1998年9月28日 補訂:1999年2月10日 2訂:2000年6月22日 3訂:2003年6月20日
文:「ぺ天使」@MilkyHorse.com
初出:http://www.retsuden.com/