□第025話 前編3―「ゴールドシチーの章」

1984年4月16日生。1990年5月1日死亡。牡。栗毛。田中牧場(門別)産。 父ヴァイスリーガル、母イタリアンシチー(母父テスコボーイ)。清水出美厩舎(栗東)。 通算成績は、20戦3勝(3-6歳時)。主な勝ち鞍は、阪神3歳S(Gl)、コスモス賞(OP)。 ―その時、…

『昔の光、今何処・・・』

悲しき大器カツラギハイデンは、北九州記念の後またもや屈腱炎を再発してしまった。しかし、もはや事実上Gl馬の名誉を失ったに等しいカツラギハイデンが種牡馬への道を切り拓くためには、もう一度レースで結果を出さなければならなかった。ボロボロになった…

『西の地に没す』

4歳以降のカツラギハイデンを見てみると、まるでダイゴトツゲキがたどった馬生をそのまま後追いしたかのように苦難の道を歩んでいる。そんな彼には、やはりダイゴトツゲキと同じ屈辱が待っていた。本賞金が2300万円だったカツラギハイデンも、5歳夏の降級に…

『覚めない悪い夢』

だが、東上したカツラギハイデンは立ち直りのきっかけをつかめないまま、苦しい戦いを強いられることになった。 スプリングS(Gll)では2番人気に支持されたカツラギハイデンだったが、先行しながら直線ずるずる後退し、8着へと沈んだ。重馬場を気にしたとはい…

『躓きの石』

明け4歳になったカツラギハイデンは、初戦としてきさらぎ賞(Glll)を目標に調整された。もっとも、これはあくまでも通過点であり、当然のことながら、最終目標はもっと先にあった。西の3歳王者となったカツラギハイデンが目指すものは、全国統一、すなわちク…

『勝利を我が手に』

直線に入ると、西浦騎手はいよいよ仕掛けた。もっとも、ずっとインコースを走っていたカツラギハイデンの場合、前もごちゃついて、そうすんなりと抜け出す、というわけにはいかない。西浦騎手が仕掛けた時、ちょうど前の馬がよれた時には、周囲をひやりとさ…

『我が道を往く』

レース前のゲート入りでのカツラギハイデンは、ゲートを少し嫌がるしぐさを見せたものの、さほど深刻な事態にはならず、無事にゲートへと収まった。 ゲートが開くと、カツラギハイデンはスムーズにスタートしたものの、やがて位置を下げると、中団へと陣取っ…

『人気に託する希望』

前評判ではデイリー杯で牡馬を蹴散らしたヤマニンファルコンが有力視されていた阪神3歳S戦線だったが、フタをあけてみると、単勝1番人気は310円のカツラギハイデンだった。2番人気で410円のヤマニンファルコン、3番人気で490円の京都3歳S馬ノトパーソという…

『彼女たちの時代』

ところで、この年の阪神3歳Sには、例年にない奇妙な現象が起こっていた。出走馬10頭のうち3頭までを牝馬が占めていたのである。阪神3歳Sは当時まだ牡牝混合戦ではあったが、1975年から1984年までの優勝馬を見ると、牝馬が勝ったのは1度だけ、と言う牡馬優勢…

『勝ってびっくり』

入厩当初、カツラギハイデンは慢性的なソエに悩まされていた。10月にデビューしたのも、彼のソエが治ったわけではなく、むしろ「これ以上待っても症状は変わらないだろう」という見切り発車に近いものだった。しかし、カツラギハイデンは、万全ではない体調…

『金三角』

「サチノボールド」の最大の長所は、気性の素直さだったという。ボールドリック産駒は、父の気性難を受け継いでいることが多かったが、彼にはそうした欠陥は見られなかった。むしろおっとりした人なつっこい性格で、大塚牧場の人々が、「サチノボールド」に…

『女の子がほしかった・・・』

カツラギハイデンのふるさとは、三石の本桐にある大塚牧場である。大塚牧場は、明治35年開業という古い歴史もさることながら、その実績においても、第1回有馬記念をはじめ天皇賞、菊花賞をも制したメイヂヒカリ、やはり菊花賞を制し、重賞5勝を含めて通算36…

『早咲きの花』

1985年の阪神3歳S勝ち馬・カツラギハイデンも、前年のダイゴトツゲキに負けず劣らず印象の薄いGl馬である。しかし、カツラギハイデンに関していうならば、その影は最初から薄かったわけではない。カツラギハイデンは、「カツラギ」の冠名が冠せられているそ…

□第025話 前編2―「カツラギハイデンの章」

1983年生〜?。牡。鹿毛。大塚牧場(三石)産。 父ボールドリック、母サチノイマイ。土門一美厩舎(栗東)。 通算成績は、9戦3勝(3-5歳時)。主な勝ち鞍は、阪神3歳S(Gl)。 その才能をあまりにも早く咲かせすぎたことの代償だったのだろうか―。 (本作では…

『ボロボロになって』

ダイゴトツゲキの現役登録が抹消された日付は、1988年3月とされている。奇しくも主戦騎手だった稲葉騎手がステッキを置いたのと同じ年のことである。 長い治療の末ようやく症状が安定し、いったんは栗東へ帰厩して復帰を目指していたダイゴトツゲキだったが…

『屈辱』

ダイゴトツゲキはその後、温泉療養で屈腱炎の治療に務めたものの、その成果ははかばかしくなかった。そして、長期にわたる休養の間に、ダイゴトツゲキはGl馬にあるまじき、ある屈辱を味わうことになった。 当時、準オープンクラスは「1400万下」であり、5歳…

『七転八倒』

ダイゴトツゲキが関西の大将格として東上して最初に出走したレースは、皐月賞トライアルのスプリングS(Gll)だった。ミホシンザン、スクラムダイナといった関東の強豪たちが顔をそろえたこのレースは、サザンフィーバーが非業の死を遂げたことでも知られてい…

『風は冷たく』

当時の競馬界は、ミスターシービー、シンボリルドルフという2頭の三冠馬がいずれも関東の厩舎から誕生したことに代表されるように、東高西低の風潮が明らかだった。特に牡馬クラシックレースでは関東勢が圧倒的であり、G制度導入前の1982年に日本ダービーで…

『意外性の馬』

直線に入ると、稲葉騎手の危惧したとおり、マルヨプラードはもう一度伸びてきた。それまで自らレースを作ってきた強みを生かし、残された最後の力をふりしぼって逃げ込みを図ったのである。マルヨプラードは後続から一歩抜け出し、ウイロウィック産駒によるG…

『師の教え』

そんな稲葉騎手の不安を押しとどめたのは、レース前に受けた、吉田師からの指示だった。「道中は2、3番手につけて、直線に入るまで追うなよ・・・」 このとき吉田師は、体調を崩して入院していたが、自分の管理馬に自分の弟子が乗ってGlに挑むということで、…

『不安』

ダイゴトツゲキは3、4番手から次第にペースを上げて2番手に押し上げていった。スタートから逃げたマルヨプラードを見ながらの、思いどおりのレースができていた。 しかし、ダイゴトツゲキの鞍上・稲葉的海騎手は、前を行くマルヨプラードの作田誠二騎手の様…

『戦士の宿命』

ダイゴトツゲキは、スタートしてすぐに好位にとりついた。持ち前の先行力で粘りきるスタイルを得意とするダイゴトツゲキにとっては、最高の形でのスタートとなった。 だが、レースが始まってすぐ、ダイゴトツゲキの好スタートとは無関係なところで、波乱と悲…

『3歳王者を目指して』

続く京都3歳S(OP)でも、ダイゴトツゲキは強い競馬を見せた。既に2勝をあげたオープン馬であり、大器と噂されていたパトリオットを、またも好位から差し切る競馬で半馬身抑え優勝し、見事2連勝を飾ったのである。 2戦2勝と勢いに乗るダイゴトツゲキは、G制度…

『意外性の馬』

「ファニースポーツ」は、やがて母が在籍していた縁もあり、栗東の吉田三郎厩舎へと入厩することになった。競走名も、ダイゴトツゲキに決まった。 もっとも、ダイゴトツゲキのデビュー前は、全姉のサンスポーツレディが未勝利のまま底を見せていたせいで、彼…

『ささやかな願い』

スポーツキイの日本における供用2年目の産駒である「ファニースポーツ」の血統も、こうした状況のもとでは、魅力的なものとはいいがたいものだった。「ファニースポーツ」自身は気性がよく手のかからない素直な子で、近所の人からは「こいつは走るんじゃない…

『足跡をたどって』

ダイゴトツゲキの生まれ故郷は、新冠の土井昭徳牧場という牧場である。土井牧場は、家族経営の典型的な小牧場であり、当時牧場にいた繁殖牝馬の数は、サラブレッドが5頭、アラブが2頭にすぎなかった。 土井牧場の馬産は、規模が小さいだけでなく、競走馬の生…

『忘れられた初代王者』

1984年の阪神3歳S勝ち馬ダイゴトツゲキは、おそらく大多数の競馬ファンにとって、既に忘れ去られた存在になっているといってよいだろう。関西の3歳王者決定戦としてGlに格付けされて初めての記念すべき阪神3歳S勝ち馬は、歴代Gl馬の中でも屈指の印象に残ら…

□第025話 前編1―「ダイゴトツゲキの章」

1982年生〜?。牡。鹿毛。土井昭徳牧場(新冠)産。 父スポーツキー、母シルバーフアニー(母父ドン)。吉田三郎厩舎(栗東)。 通算成績は、7戦3勝(3-4歳時)。主な勝ち鞍は、阪神3歳S(Gl)、京都3歳S(OP)。 ―歴史の闇へと消えていった。 (本作では列伝…

『消えたGl』

日本競馬にグレード制が導入されたのは、1984年のことである。現在の番組につながるレース体系の原型ができあがったのは、この時の改編によるものだが、実際には、その後も番組体系には幾度かの大幅、小幅な改良が加えられ、現在の番組表はグレード制発足当…

■第025/026話―栄光なきGl馬たち「阪神3歳S勝ち馬列伝」

サラブレッド それは最も美しい生きもの 走るために生を受けしもの 生まれながらに戦う宿命を負いしもの サラブレッド 彼らはその悲しき宿命ゆえに 走れないものは 戦えないものは 闇へと消えていく宿命にある 彼らが生きる道を切り拓くためには 己の実力で…