『金三角』

 「サチノボールド」の最大の長所は、気性の素直さだったという。ボールドリック産駒は、父の気性難を受け継いでいることが多かったが、彼にはそうした欠陥は見られなかった。むしろおっとりした人なつっこい性格で、大塚牧場の人々が、「サチノボールド」については

「おなかの下をくぐっても平気なくらい」

と例えるほどの気のいい子馬だった。

 「サチノボールド」は、やがてカツラギエースの馬主として知られる野出一三氏の所有馬となることに決まり、カツラギハイデンという競走名を与えられることになった。

 当時、カツラギハイデンの兄姉たちは、さしたる実績を残していなかったものの、カツラギハイデンは入厩時からひそかな期待とともに見守られ、入厩先も、カツラギエースの活躍によって信頼を勝ち取った土門一美厩舎に決まった。これを受けて土門師は、カツラギエースの引退で手が空いていた厩務員を彼の担当に据え、さらに主戦騎手としても西浦勝一騎手を選ぶことで、カツラギエースとまったく同じ布陣を完成させた。