『我が道を往く』

 レース前のゲート入りでのカツラギハイデンは、ゲートを少し嫌がるしぐさを見せたものの、さほど深刻な事態にはならず、無事にゲートへと収まった。

 ゲートが開くと、カツラギハイデンはスムーズにスタートしたものの、やがて位置を下げると、中団へと陣取った。それまでのカツラギハイデンは、すべて好位からの抜け出しで結果を残してきていただけに、双眼鏡でレースを見ていた土門師は、

「ずいぶんゆっくり行ってくれるな」

とイライラを隠せなかったという。

 しかし、ぐずついているように見えたこの位置は、ハイペースを見越した西浦騎手の作戦だった。強引にハナを切ったハギノビジョウフの鞍上は伊藤清章騎手であり、ハギノトップレディハギノカムイオーといった「華麗なる一族」の主戦騎手であるとともに、強引なまでの逃げに定評のある勝負師だった。そんな彼が一気に行ったことで、レースは前半4ハロンが46秒8という激しい流れになっていた。「カツラギハイデンが遅い」と見えたのは、まわりが速すぎたことによる錯覚に過ぎなかった。

 ハイペースを作り出した張本人のハギノビジョウフの足どりは、レースの後半に入っても、力強いままだった。そのため他の騎手の中には、本当のペースに気づかない者も多かった。先行してハイペースについていった騎手たちが、第3コーナーから第4コーナーにかけてようやく自分の馬の限界に気づき、愕然とし始めたあたりでも、カツラギハイデンの手ごたえは十分残っていた。この時西浦騎手が考えたのは、「いつ抜け出そうか」という問題だけだった。