『勝利を我が手に』

 直線に入ると、西浦騎手はいよいよ仕掛けた。もっとも、ずっとインコースを走っていたカツラギハイデンの場合、前もごちゃついて、そうすんなりと抜け出す、というわけにはいかない。西浦騎手が仕掛けた時、ちょうど前の馬がよれた時には、周囲をひやりとさせた。実際、カツラギハイデンはこの時一瞬ながら、もたついてしまった。

 しかし、その後すぐに態勢を立て直し、内を割って抜け出してしまえば、カツラギハイデンの脚色は明らかに他の馬たちを圧倒していた。粘るハギノビジョウフも、追い込むヤマニンファルコン、ノトパーソも、カツラギハイデンの勢いには及ぶべくもない。ハギノビジョウフを一気にかわしてその差を広げたカツラギハイデンは、後方から直線だけで2番手まで押し上げてきたノトパーソの追撃をまったく問題にせず、1馬身4分の3差をつけて優勝した。2着以降とは「永遠の差」があるといっていい、内容の濃い勝ち方だった。

「現時点では、カツラギエースよりもはっきりと上」

 レース後の西浦騎手は、いとも簡単にこう言ってのけた。3歳時のカツラギハイデンは、ソエに悩まされっぱなしだったにもかかわらず、阪神3歳Sを完勝してしまった。ソエというのは、成長して馬体が固まってくるにつれ、自然と治まってくる。実際に、カツラギハイデンのソエは、この時期は快方へと向かっていた。もともと晩成、長距離血統のカツラギハイデンならば、4歳になってからさらなる飛躍を見せたとしても、不思議ではない・・・。

「この馬で、クラシックでの関西馬の連敗を止める」

 関西の競馬ファンの夢が、現実性を持ったものとして輝きを増してきたのも、ある意味やむをえないことだった。

 この年の最優秀3歳牡馬としては、朝日杯3歳S(Gl)を勝ったダイシンフブキが130票を集めて圧勝した。カツラギハイデンに入った票はわずかに7票だったが、これはダイシンフブキが無敗の4連勝であるのに対してカツラギハイデンが4戦3勝、6着の大敗もあること、重賞の実績もカツラギハイデンは阪神3歳Sだけだったのに対し、ダイシンフブキは朝日杯だけでなく京成杯3歳S(Gll)も圧勝していることを考えるとやむをえないことだった。

 だが、カツラギハイデンにかかる期待は、こうした表面的な部分の評価とは裏腹に、その将来性をおおいに嘱望されていた。