『目立たぬままに』

 当初、デビューを待っていた多くの若駒の中で、ゴールドシチーがたちまち頭角を現したわけではなかった。特別な良血でもなければ調教で抜群の時計を叩き出すわけでもないゴールドシチーは、夏にデビューした後も、しばらくの間は平凡な3歳馬の1頭としてしか数えられていなかった。

 デビュー後しばらくダートの短距離戦で走り続けた彼は、デビュー戦は10頭だて3番人気で5着、折り返しの2戦目は6頭だて3番人気で2着に敗れ、初勝利は3戦目の未勝利戦を待たなければならなかった。

 だが、鞍上の本田優騎手は、ゴールドシチーのレースの中に、意外なほどの手ごたえを感じていた。パドックでは激しくいれ込み、スタートでも大きく出遅れ、なんの見所もないように思われたゴールドシチーのデビュー戦だったが、本田騎手だけは、直線で見せた末脚から彼の秘められた資質を感じ取っていた。本田騎手は、それまでGl級の大レースの勝ちはなかったものの、デビュー以来着実に勝ちを稼ぐことで技術を認められつつあり、日頃から積み重ねる努力の中で馬の素質を見る目を養っていた。

 本田騎手の見立ての正しさを証明するかのように、ゴールドシチーはその後重賞初挑戦となる札幌3歳Sで、7番人気の低評価ながらよく追い込んで2着に入った。また、オープン馬としての初戦であり、はじめての芝コースとなった次走のコスモス賞(OP)では、この年の暮れに朝日杯3歳S(Gl。現朝日杯フューティリティS)を勝ち、翌年にはダービーを制するメリーナイス以下、ライバルたちをまったく寄せつけず、2勝目をあげて北海道シリーズの有終の美を飾った。