『関西お目見え』

 北海道で5戦を走ったゴールドシチーは、ようやく栗東へ帰ってくると、その後しばらくレースには出走せず、慎重に調整することになった。コスモス賞から約3ヶ月、ゴールドシチーの復帰戦となったのは、阪神3歳S(Gl)だった。関西馬のくせに、関西初出走はGlになったのである。

 このローテーションについて清水師は

「早くから阪神3歳S一本に絞った調教をしてきた。久々の不安はない」

と語っていた。しかし、経験の浅い3歳馬はただでさえ何が起こるか分からない。まして、馬は名だたる気性難のゴールドシチーである。彼を有名にしたのは、早起きのサラブレッドの中で、彼はなぜか早起きというものが大嫌いで、無理に起こそうとすると大暴れするため、いつしか他の馬たちが朝の調教をとっくに終える午前10時を過ぎないと、決してトレセンに現れないとして、「午前10時の男」と揶揄されたという逸話だった。

 3歳馬は、レースの間隔があくと、何かといれ込みがちになる。この日のゴールドシチーは、特にそれが激しかった。騎乗した本田騎手も「振り落とされないようにするのがやっと」という状態であり、まずはまともなレースができるかどうかを心配しなければならなかった。

 ありあまる闘志なのか、ただの入れ込みなのか、わからないままにスタートからものすごい勢いで飛び出したゴールドシチーは、ややかかり気味でハナを切りにいった。鞍上の本田騎手は、まずはメイショウマツカゼに先を譲って逃げさせるため、ゴールドシチーを抑えようとしたものの、肝心の馬は先頭を走りたくてたまらない。親の心子知らず」と言うが、逃げ馬を突っつこうと「頑張る」ゴールドシチーとそれを懸命に抑える本田騎手の姿は、まさに「騎手の心馬知らず」だった。