『今も流れる時代とともに』

 しかし、サクラスターオー、マティリアル、ゴールドシチーたちの時が止まった後も、ダービー馬メリーナイスの時は流れ続けて現在に至っている。

 メリーナイスは、種牡馬としてマイネルリマーク(共同通信杯)、イイデライナー(京都4歳特別)などの重賞馬を輩出し、そこそこの成功を収めた。また、彼自身は芝でしか走ったことがなかったが、産駒からはダートで活躍する馬を出しており、一時は使い勝手のよい種牡馬としてある程度の人気も集めていた。近年の内国産種牡馬が大苦戦する中で、メリーナイス種牡馬成績はむしろ健闘の部類に入るものだった。

 しかし、そうした評価がされた期間は、そう長くはなかった。毎年新しい種牡馬が次々と導入される現実の中で、手堅いだけではやはり生き残ることはできない。彼は、種牡馬が生き残るためのもうひとつの条件である大物の輩出は果たせなかった。・・・そして彼の人気は次第に、そして確実に下降し、1999年を最後に種牡馬を引退することになった。その後のメリーナイスは、熱心なファンの協力もあり、長野市の牧場で功労馬としての余生を送っている。

 メリーナイスのダービー制覇の時から、決して短くはない時が過ぎた。悲劇の世代に生まれ、多くのライバルたちの生と死を見守り続けたメリーナイスは、時その間時代の証人として、激しく移り変わる競馬界を見守り続けてきた。彼とともにクラシック戦線を戦った馬たちの多くは、時代の移ろいを物語るように、もはやこの世にはいない。そんな中で、厳しい競走馬生活、そして種牡馬としての馬生を経て今に至り、サラブレッドとしての老境を迎えつつあるメリーナイスは、果たして長野の牧場で何を思い、何を願っているのだろうか。[完]

記:1999年5月22日 補訂:2000年8月23日 2訂:2002年10月5日 3訂:2003年3月23日
文:「ぺ天使」@MilkyHorse.com
初出:http://www.retsuden.com/