『始まりの季節』

 3歳時は勝っても勝っても評価が上がらなかったフレッシュボイスだったが、さすがにこれだけ好走を続けると、周囲の視線も変わってきた。4歳初戦で初めて重賞に挑むことになったフレッシュボイスは、そのシンザン記念(Glll)で2番人気に支持された。

「早く追い出すと末が甘くなるから、坂を登り切るまでは行くな・・・」

 境師の指示を受けた古小路重男騎手も後方待機で待ちの競馬に徹し、最後はクビ差抜け出して重賞制覇を果たした。後にフレッシュボイスの最大の武器となる瞬発力は、この時点から既に萌芽があった。

 だが、フレッシュボイスの名前が本当の意味での全国区になったのは、次走の毎日杯(Glll)でのことだった。毎日杯は例年、クラシックを目指す関西馬が賞金を加算して皐月賞へと参戦する最後のチャンスであり、「東上列車最終便」とも呼ばれている。フレッシュボイスの場合、シンザン記念優勝の実績があるから賞金は足りているとはいえ、血統的に距離への対応力が疑問視されており、2000mの毎日杯での結果は今後のクラシックに向けた大きな試金石と位置づけられていた。

 ところが、毎日杯当日、阪神競馬場には雪が降りしきっていた。最大の持ち味である瞬発力が殺されてしまいかねない天候と馬場状態は、フレッシュボイス陣営にとって不安以外の何者でもなかった。

 フレッシュボイスは、本賞金の多さゆえに他の出走馬たちより1kg重い56kgの斤量を背負い、鞍上も障害戦で落馬して負傷した古小路騎手からテン乗り田原成貴騎手へ乗り替わっていた。様々な要因が重なってファンの不安も募り、この日のフレッシュボイスはタケノコマヨシに次ぐ2番人気にとどまっていた。