『南国に果つ』

 ゴールドシチーの乗馬生活の終わりは、突然やってきた。ゴールドシチーが宮崎競馬場にやってきて約半年が過ぎた平成2年5月1日、悲劇は起こった。

 その日のゴールドシチーは、いつもと同じように他の馬たちと一緒に放牧に出されていた。メーデーで休みを取った従業員が多かったことから人の目が行き届きにくかったことを除くと、何の変哲もなく1日が過ぎてゆくはずだった。

 しかし、隣接する社宅から馬たちを見ていた従業員の家族が洗濯物を干すためにベランダに出たその時、とても悲しそうな馬の声がしたという。あわててその人が牧場の方を見てみると、1頭の馬が右前脚を宙に浮かせて鳴いて―いな、泣いていた。連絡を受けた場長らがあわてて駆け寄ってみると、そこには3本脚でかろうじて立ちながら、大きな眼一杯に涙をためたゴールドシチーの姿があったという…。

 応急処置の後、翌5月2日に右前脚のレントゲンが撮影されたものの、右前上腕部の骨折により予後不良という診断が下された。その日のうちに、ゴールドシチー安楽死の措置がなされた。