『メジロ最良の年』

 菊花賞は2周目の坂下りを終え、後続馬はいっせいに追い始めた。第4コーナーを回って直線に入る時点で3番手という好位置につけていたメジロデュレンは、手応えも絶好だった。後方の有力馬たちが展開のアヤに苦しむ中で、メジロデュレンが敵と見定めていたのは、道中彼らと同じように自分のペースでレースを進めてきたダービー馬・ダイナガリバーただ1頭だった。

 ダイナガリバーも、手応えは良いのが見て取れた。増沢末夫騎手は、この時の手応えを

「ダービーの時以上だった」

と語っている。しかし、村本騎手には、この段階でもまだ仕掛けを遅らせる余裕があった。

 戦いの最後を飾るのは、ダイナガリバーメジロデュレンとの一騎打ちだった。内のダイナガリバーと、外のメジロデュレン。この2頭による壮絶な叩き合いの決め手となったのは、果たして父から受け継いだ長距離適性だったのか、あるいは自身の勝負根性だったのか。最後の50mでライバルを突き放したのは、内のダービー馬ではなく外の上がり馬だった。・・・そして、メジロデュレンは栄光のゴールを駆け抜けた。それは、メジロ牧場にとって初めての牡馬クラシックホースが誕生する瞬間だった。

 メジロ牧場の関係者は、

天皇賞向きと思っていたのに、予定より早く大仕事をやってくれた」

歓喜に沸いた。中には

「オーナーへの恩返しができた」

と涙ぐむ者もいたという。エリザベス女王杯に続く2週続けてのGl制覇もさることながら、亡き北野豊吉氏の悲願だったクラシックを、牝馬三冠のメジロラモーヌとともに墓前へ捧げることができることが、彼らにとって何よりもうれしいことだった。

 レース後の記念撮影では、前週のエリザベス女王杯に続いてこの週も、今度は村本騎手の手によって北野氏の遺影が高々と掲げられたことも、彼らにとってはむしろ当然のことだったかもしれない。