『狂想曲』

 レースは当時随一の逃げ馬レジェンドテイオーが逃げる展開となった。メジロデュレンは、中団にいた大本命サクラスターオーの直後につけた。その位置でレースの流れに潜んだメジロデュレンは、中山の勝負どころとされる、2周目の第3コーナー過ぎで仕掛け時を窺っていた。

 この時の村本騎手は、馬場の内は空かないと見て、機会を見て外へ持ち出そうと思っていたという。異変が起こったのは、その時だった。メジロデュレンの内にいたサクラスターオーが、突然故障を発生し、競走を中止してしまったのである。

 サクラスターオーは、長い開催で一番馬場が痛んだ場所に脚をとられてしまい、致命的な骨折を発症していた。東騎手は、後々までずっと

「どうしてあそこを通ったんだろう・・・」

と悔やみ続けた。だが、時計の針は戻せない。取り返しのつかない事故によって、サクラスターオーが上がっていくはずだった空間が、ぽっかりと空白になる。

 ・・・場内の悲鳴―今度は正真正銘の―をよそに、メジロデュレンはその空白にするりと入り込んだ。東騎手が悔やんだ最悪の場所を通り過ぎた後のインコースは、最高の経済コースとなっていた。

 サクラスターオーが進むはずだった空間をぬって上がっていったのは、メジロデュレンだった。その頃、前に行った馬たちの脚も、ゴール前でピタリと止まっていた。かなりのスローペース、そして荒れた馬場を意識して、意表を突いた先行策に出ていたダイナアクトレスも、中団よりやや前で自分の競馬を進めていたはずのダイナガリバーも止まった。後方のマックスビューティも、二冠を制した豪脚がまったく鳴りをひそめていた。そして、サクラスターオーは第4コーナー付近で、無惨な姿をさらしている・・・。

 前の人気馬たちは止まり、後ろの有力馬たちは来ない。1番人気の若き流れ星は・・・消えた。ダイナガリバーは、ダイナアクトレスはどうした? マックスビューティは何をしている? サクラスターオーはどうなるんだ!?