『塞翁が馬』

  ところが、その後のハクタイセイは、なかなか勝てなかった。周囲の期待を裏切って4着、6着という着順が続いたのである。未勝利戦の場合、強い馬は次々勝ち上がっていくから、出走馬は時とともに弱くなっていくはずである。それなのにハクタイセイは、走れば走るほど着順が落ちていくではないか。

 そこで、ハクタイセイを管理する布施師は考えた。芝の良馬場だと頭打ちである。だが、ハクタイセイは血統的にはダート向きの力馬。ならば、今度はダート戦を使ってみようか、と。

 すると、ハクタイセイは生まれ変わったかのように躍進を遂げた。やはり南関東競馬で圧倒的な強さを誇ったハイセイコーの血は生きていたのである。ダート緒戦は2着に敗れたものの、次走では逃げて4馬身差の圧勝を飾り、5戦目にしてようやく勝ち上がりを果たした。もう1戦ダートの400万円下を使ってみると、今度もやはり3馬身差の快勝で、悠々のオープン入りである。

 早い時期にオープン入りすると欲が出てくるのは、ホースマンの常である。しかし、布施師はハクタイセイに無理をさせようとはしなかった。3歳のうちに2勝を挙げたハクタイセイなら、当時は牡牝混合の西の3歳王者決定戦だった阪神3歳S(Gl)やシンザン記念(Glll)といった重賞路線へと進むという手もあったが、布施師はあえてこれらの道は選ばず、オープン特別のシクラメンS(OP)から若駒S(OP)へと歩みを進めることとした。

 このローテーションの背景に、芝の未勝利戦でもたついたことがあったことは確かである。ハクタイセイのこれまでの持ち時計は平凡なものだったし、彼は力のいる馬場ならともかく、スピードでは一線級に及ばない、と思われていた。ならば、強い相手と無理にぶつけるよりは、もう少し自分のペースで走らせた方がいい・・・。

 だが、そんな布施師の「慎重な」選択は、ハクタイセイのためには吉と出た。有力馬が重賞戦線に挑む中で「裏街道」ともいうべき地味なレースを選んで出走したハクタイセイは、さしたる強敵と戦う必要もないままにシクラメンS、若駒Sを勝ち、4連勝を達成したのである。そうなれば、皐月賞、そして日本ダービーと続く春のクラシックがいよいよ現実のものとなってくる・・・。