『絶対皇帝、君臨す』

 たんぱ賞で重賞ウィナーの仲間入りを果たしたスズパレードは、秋緒戦に選んだセントライト記念(Glll)で、シンボリルドルフに4度目の対決を挑むことになった。

 シンボリルドルフの秋のローテーションについては、当時あまりの強さに

「もはや三冠を獲る必要すらない」

といわれ、菊花賞(Gl)は使わずに直接ジャパンC(Gl)へ向かう、という噂もささやかれていた。完全に勝負づけがついた相手とは、もう戦う必要すらないということであり、ここまでいわれたのでは、同世代の馬たちの矜持は形無しである。完全に勝負づけがついた・・・それは、春に関してはまったく事実であるだけに、余計に始末が悪い。菊花賞ジャパンCかはさておき、叩き台として出てくるシンボリルドルフに対し、スズパレードは誇りをかけて戦うしかなかった。

 スズパレードは、この時まだ本調子ではなかった。夏負けを起こして馬体が減った影響で、調教も十分ではなかったし、体調すら万全ではなかったのである。しかし、もはや自分たちと同じ土俵に上がってくれないかもしれないシンボリルドルフに対しては、どこかで目に物を見せなければ、戦士の一義がすたってしまう。

 そんな悲壮な決意で戦いに臨んだスズパレードだった。しかし、実際には、体調不良で挑んでくる馬などもはやシンボリルドルフの相手ではなく、絶対皇帝の牙城は磐石だった。レコードタイムで3馬身差の圧勝を演じたシンボリルドルフの前に、スズパレードはあっさりと返り討ちにあって6着に惨敗し、またしても厚い壁に跳ね返された。

 こうして前哨戦でシンボリルドルフに完膚なきまでに叩きのめされたスズパレードは、もはや皇帝にはかなわない、ということで菊花賞(Gl)を回避する羽目になってしまった。スズパレードと同世代、同馬主の馬の中には、血統的にも従兄弟にあたるダービー2着馬スズマッハがいた。馬主サイドは、

「万にひとつでも皇帝を破り得るとすれば、スズパレードではなくスズマッハだろう」

ということで、菊花賞スズマッハに任せてスズパレードは裏街道・・・ローカルの中距離戦線で一から出直すことになった。