『夢』
しかし、有馬記念を控えたダイユウサクの調整は、内藤師の予想すら超える素晴らしいものだった。それは、もう一度同じ状態に仕上げろといわれてもできない、それほどの究極の仕上げだった。
内藤師は、有馬記念を数日後に控えたある夜、夢を見た。夢の中で5枠に入ったダイユウサクは、メジロマックイーン以下のライバルを斥けて、先頭でゴールを駆け抜けていった。
内藤師は、調教師は買ってはいけないはずの5枠からの馬券を、大量に買っていた。そこで内藤師が換金に行ったところ
「現金にしますか、小切手にしますか」
と尋ねられた。そこで彼は、
「億という金はまだ見たことがないので、現金にして下さい」
と答え、内藤師は、ダイユウサクと一緒に札束を馬運車に積んで栗東に帰っていった・・・というのが、その夢の内容だった。
この段階ではまだ笑い話半分で、知り合いに
「5枠に入ったらうちの馬の単勝を買ってみてくれ」
などと冗談まじりに笑っていた内藤師だったが、抽選でダイユウサクの枠順が本当に「5枠」の8番になると、すっかりその気になってしまった。内藤師のイレ込み具合がどのくらいのものだったかというと、有馬記念当日の乗り役として、思わず岡部幸雄騎手に声をかけるほどだった。