『挑戦者たち』

 しかし、次走のスワンS(Gll)で思い切った後方待機策をとったところ、鋭い末脚で4着に食い込んだことから、みな

「諦めるのは早い」

と思い直すようになった。ダイユウサクは、距離が短い方が良いのかもしれない。また、それまではどちらかというと好位か中団からの競馬が多かったダイユウサクだが、年齢が年齢だけに、一瞬の瞬発力に賭けた方がいいのではないか・・・。

 内藤師は、ダイユウサクマイルCS(Gl)を使ってみた。前年の天皇賞・秋に続く、生涯2度目のGl挑戦である。すると、ダイユウサクは後方からよく追い込み、強力なメンバーの中で掲示板に食い込んで5着に入った。これは、内藤師らにとっても予想外の活躍だった。

 ダイユウサクの担当厩務員である平田修氏と、主戦騎手の熊沢重文騎手は

「何とか短いところでGlを獲らせてやりたい」

と本気で考えるようになり、話し合いの上、内藤師にスプリンターズS(Gl)への出走を頼み込んだ。年齢的に、これはGlの最後のチャンスかもしれなかった。

 だが、内藤師の判断は、彼らの願いとはまったく違ったものだった。ダイユウサクの次走はスプリンターズS(Gl)の前週に行われた芝1600mの阪神競馬場新装記念(OP)に決まったのである。このレースに勝つことは勝ったが、まさか連闘でGlを使うわけにもいかず、ダイユウサクにGlを獲らせてやりたいという平田厩務員や熊沢騎手の野望は、事実上断たれてしまったかに思われた。

 実はこの時、内藤師の眼はまったく別のところを向いていたが、そのことを若い2人は知る由もない。彼らは、59kgのハンデを背負わされて阪神競馬場新装記念(OP)を勝ったダイユウサクが、有馬記念(Gl)に登録されているという事実の意味を測りかねていたのである。