『伝統を超えた幸運』

 この年の有馬記念(Gl)は、皐月賞、ダービーを無敗で制してクラシック戦線を主導したトウカイテイオーが骨折で出走できず、古馬最強と謳われるメジロマックイーンの独壇場となるだろうというのがもっぱらの予想だった。この年はトウカイテイオーに限らず故障で有馬記念を回避する有力馬が相次いだため、出走馬の層は例年よりも薄くなりつつあった。

 もっとも、いくら層が薄いとはいっても、有馬記念有馬記念である。重賞勝ちが京都金杯だけのダイユウサクが、ファン投票で選ばれるはずはない。ダイユウサク有馬記念に出走するためには、推薦委員会(当時)から推薦をもらう必要がある。

 推薦委員会では、ダイユウサクの出走の可否について、かなりの激論がかわされたという。反対説の主たる論拠は、

「この程度の馬を出しては、伝統ある有馬記念の格が落ちるのではないか」

という一点に尽きていた。

 それでもダイユウサクは、有馬記念に何とか推薦されることになった。この年彼が京都金杯に加えて前走でトップハンデでOP特別を勝って状態が上向いていることは、推薦への大きな後押しになった。さらに、この年は登録馬が少なく、ただでさえフルゲートにならないのに、ダイユウサクをはねてしまっては頭数的に情けないという事情もあった。