『盾への片道切符』

 夏を越して秋競馬が始まり、プレクラスニーの復帰戦は、毎日王冠(Gll)と決まった。毎日王冠の舞台はエプソムCと同じ東京1800mであり、プレクラスニーにとってコース適性という意味では申し分ない。だが、ハンデGlllで天皇賞・春(Gl)、宝塚記念(Gl)には足りない馬たちが集まるエプソムCと異なり、毎日王冠天皇賞・秋(Gl)の重要なステップレースと位置づけられており、その出走馬も、天皇賞・秋を目指す強豪たちが集結することも珍しくない。1991年秋もまた、その例外ではなかった。

 この時の出走馬には、まず89年の安田記念(Gl)、90年のスプリンターズS(Gl)を制したGl2勝馬バンブーメモリー、90年の宝塚記念(Gl)でオグリキャップを破ったオサイチジョージがいた。また、この時点ではまだGlを勝っていないものの、後に91年、92年とマイルCS(Gl)を連覇する希代のクセ馬ダイタクヘリオスの姿もあった。プレクラスニーを含めると、このレースに出走した13頭のうち、4頭が引退までにGlを計6勝したことになる。さらに、脇を固めるのも淀巧者のオースミロッチ無事是名馬のカリブソングら渋い個性派が揃い、それまでは一線級との対決を経験していなかったプレクラスニーにとって、天皇賞・秋へ向けた見通し、そして彼自身の真価が問われるレースとなった。ちなみにこの週は、東京競馬場で初めて馬番連勝が発売された週である。

 この日のレースは、ダイタクヘリオスが力強く逃げる中、プレクラスニーは淡々と2番手を追走していった。力のある2頭に引っ張られ、ペースはつり上がっていったものの、充実期を迎えつつあるこの2頭は、自ら作り出した厳しいペースに飲み込まれるような並みの馬とは、実力の次元が違っていた。直線に入ってからも彼らの脚色は衰えることなく、むしろ激しい叩き合いを続けたのである。そして、死闘の末に半馬身相手を競り落としたのは、ダイタクヘリオスではなくプレクラスニーの方だった。

 この日の勝ち時計は1分46秒1で、サクラユタカオーが持つコースレコードに僅か0秒1差という優秀なタイムだった。強い相手に強い勝ち方を収めたプレクラスニーは、見事に重賞2連勝を飾り、堂々と盾へと駒を進めることになった。