『暴行犯シリウスシンボリ』

 シリウスシンボリが最後に競馬ファンを騒がせたのは、その翌年である88年、前年に続いて出走した毎日王冠(Gll)だった。しかし、それは4歳の怪物オグリキャップを追い上げて1馬身1/4差の2着に入ったことによるものではない。シリウスシンボリは、レース前にたいへんな不祥事を起こしてしまったのである。

 この年も2戦して未勝利だったシリウスシンボリだったが、前走のオープン特別では久々に2着に入って連対を果たしたこともあって、4番人気に支持されていた。ところが、この日のシリウスシンボリの入れ込みは特にひどかった。そして、なんと2番人気で前年(1987年)の最優秀古牝馬、この年も春にスプリンターズS(Gll)と京王杯SC(Gll)を勝っている名牝ダイナアクトレスの脇腹に回し蹴りを食わした上、さらにレジェンドテイオーにも襲いかかり、今度は左肩を蹴飛ばしてしまった。

 結局ダイナアクトレスは大事に至らずレースには出走したものの、直線で伸びを欠いて4着に敗れた。ダイナアクトレスの鞍上は皮肉なことに岡部騎手だったが、彼曰く、ダイナアクトレスはレース前に蹴飛ばさたショックで馬が走る気をなくしてしまったそうである。また、もう1頭の被害者であるレジェンドテイオーに至っては、蹴られたせいで跛行を発症し、哀れ発走除外となってしまった。これではレジェンドテイオー陣営は、腹の虫がおさまろうはずがない。レジェンドテイオーは7ヶ月の休養明けであり、陣営はここを叩いて天皇賞・秋(Gl)へと駒を進めるローテーションを立てていた。ところが、ここで発走除外をくらったものだから、レジェンドテイオーは続く天皇賞・秋(Gl)に、半年以上のブランクを挟んだぶっつけ本番で臨むことになってしまった。

 突然のハプニングに大慌ての人間たちをよそに、「暴行犯」シリウスシンボリは2頭のライバルを蹴飛ばして落ち着いたのか、何食わぬ顔をしてレースに出走した。しかも、ここで大敗でもしてくれればまだしも、直線では突然豪脚を復活させ、怪物オグリキャップには及ばなかったものの、被害者のダイナアクトレスよりも先着し2着に入ってしまったのだから始末が悪い。関係者もこれでは復活を喜ぶどころではなかった。

 その後シリウスシンボリは、前年と同じローテーションで天皇賞・秋(Gl)へと進んだものの、見せ場もなく7着に敗れた。そして、このレースがシリウスシンボリの最後のレースとなった。ちなみに、毎日王冠(Gll)で蹴飛ばしたレジェンドテイオーはこのレースで3着、ダイナアクトレスは4着に入り、シリウスシンボリにはしっかりと先着して意趣返しを果たしている。

 現役を引退して種牡馬入りすることになったシリウスシンボリの通算成績は26戦4勝で、結局、日本ダービー(Gl)がシリウスシンボリの生涯最後の勝利となった。