『じ〜わんって、何さ』

 阪神3歳Sの時、ゴールドシチーの故郷である田中牧場では、生産者の田中夫妻の間で、深遠なる会話が交わされていた。レースの時、田中夫人はちょうど買い物に出かけていたため、田中氏は一人テレビで、自分の生産馬の快挙を見つめていた。優勝が決まってすっかり舞い上がった田中氏は、その後夫人が帰ってきた際に、喜び勇んでゴールドシチーが勝ったことを教えてやった。

 ところが、夫人が示した反応は、田中氏の期待したものとはかけ離れたものだった。

「あら、勝ったの。よかったわね」

 もっと劇的な反応を期待していた田中氏は、思いのほか平静な夫人の反応に頭に来た。

「勝ったんだ! 」
「よかったじゃない」
「Glだぞ! 」
「『じ〜わん』ってなにさ? 」

 零細牧場だった当時の田中牧場では、生産馬が中央競馬にいくことすらめったになかった。そのため、田中夫人は「Gl」が何のことなのかを知らなかったのである。