『我らが勝利者たち』

 先頭に立ったものの、限界に達しようとしていたスズカコバンに対し、もの凄い脚で後方の馬群を抜け出し、襲いかかってくる馬がいた。レース中ただ1頭、スズカコバンのさらに後ろでスタミナを温存し、仕掛けも最後の最後まで遅らせて末脚勝負に賭けていた後門の狼サクラガイセンが、ついに牙を剥いたのである。既に限界に突き当たったスズカコバンを一気にとらえると、ゴール板地点でかわし、抜き去っていった。

 しかし、サクラガイセンの急襲は、コンマ1秒遅かった。観客の誰もが手に汗握った死闘は、文字通りの「クビの上げ下げ」により、わずかにアタマ差、スズカコバンが残ったところがゴール板だった。サクラガイセンに騎乗していた小島太騎手は、最後の強襲の直前に、内を衝くか外に持ち出すか迷ったという。その一瞬の仕掛けの遅れが、勝敗の分かれ道となった。

 こうしてスズカコバンは苦しい戦いを勝ち抜き、いくつかの幸運を拾うことで勝利の女神の微笑みを勝ち取り、ついにビッグタイトルを手に入れた。

「この馬で大きな仕事をしたいと思っていたので、とてもうれしい」

とは、村本騎手の談である。ちょうど1年前の宝塚記念からスズカコバンに乗り続けていた村本騎手にとって、ひとつの大きな区切りで見事にGl制覇を飾ったのである。この日の勝利は、短距離戦線にはニホンピロウィナーがいたものの、中長距離戦線では関東馬に「やられっぱなし」だった関西のホースマン、ファンにとっても嬉しいもので、彼らには、仁川のスタンドから大きな歓声が寄せられた。

 ちなみに、この勝利の裏側では、4着に敗れたステートジャガーから禁止薬物であるカフェインが検出される、というハプニングが起こっている。今も競馬史に残るミステリー「ステートジャガー事件」である。そして事件に巻き込まれたステートジャガーはその後数奇な運命を辿ることになるのだが、それはまた別のお話である。